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5. ことはじめにあたって

アスペルガーの多くは、基本的には内向的で劣等感が強くて、恥ずかしがり屋のくせに、ある得意分野の一面においてはやたらと自己主張が強く、自分の考えを表現をしたくてたまらない、という面倒な性質をもっている。その上、異常なまでに他人の評価を気にするし、こだわりがあって理想が高い極度の完璧主義(当人にその自覚なし)と来たもんだから始末が悪いのだが、僕もまたしかりだ。

勉強熱心で、常に何かしなくてはと焦っている反面、いざ具体的行動に出ようとすると途端に臆病風を吹かすのだ。人様に見せるほどのものは作れない、素の自分を出すのは恥、自分の考えなど笑われるに決まっている、世に出すに値する立派なものを生み出さねばならない。そんな強迫観念に囚われるのだ。

すると以下のようなプロセスを辿ることになる。

①そもそもの目標が壮大すぎるので、②実力以上のことをしようと根詰めて躍起になる。また、細かい粗が気になって、なかなか完成させられず、 ③心身ともに疲れ果てて投げ出す。 ④その結果、成し遂げられないことへの自己嫌悪、自分は何もできないという思い込みと劣等感が強化されるので、⑤再度プレッシャーをかけて、更なる努力を自分に課し、完璧主義に拍車がかかるが、 ⑥結局徒労に終わり、フラストレーションだけが蓄積される……。

まったく、書いててウンザリするけど、本当にそうなんだよね……。
こんな生産性皆無の悪循環は、当然ながら好んでやっているわけじゃない。自己改革の必要性は常に感じているのである。こんなことになるのは、自分の人間性に問題があるからに違いない。そう思っていた僕ももちろん、自分の無力と怠惰を、意思と精神力の弱さを責め、必死に自己改革に取り組んでいた。

ところが。

こういったことが起こる根本原因を、発達障害の認識から捉えるとこうなる。

「先天的器質による前頭葉を中心とした脳の実行機能の不全」

つまりは、脳内のセロトニンやドーパミン等の神経伝達物質の不活性、扁桃角の過覚醒、ワーキングメモリ・注意制御・抑止機能の弱さと、それらが作り出す恐怖心や反芻(実態的な感情とともにネガティブな事を思い巡らすこと)などの症状であり、生育過程で形成された認知の偏りであり、通常なら気にも留めないような詳細な情報(主にネガティブな)をいちいち拾ってしまう過敏な感覚を有するがゆえ云々。

……そうたっだのか。なんだ、人間的資質や努力不足が原因じゃないのか。
こんな現象は、自分だけに起こるのではなく、発達障害人によくありがちなことの一例。そうと知って、僕は肩透かしを食ったように気が抜けた。

そもそもの原因設定が違っていたのである。生産性のない悪循環から抜け出すには、人間性や精神力を磨くよりもまず、脳を活性化して、前頭葉の実行機能を鍛えろってことだ。
なるほど、そりゃそうだ。漠然とした自己啓発的な取り組みより、論拠に基づいた「療法」にフォーカスする方が効率いいに決まってるし、しかも、それなら自分にもできるかも知れない。

発達障害を自認することで、自らのスタンスが定まり、外側に向かって表現したり、発言することへのつかえが取れかけていた僕は、それがわかると、俄然、意欲が出て、勇気も少し湧いてきた。そうして、今までとは違う行動を少しずつ起こしはじめたわけだが、こうして文章を書いているのもその一貫なのだ。
基本的には内向的で受け身であるとはいえ、アスペルガーの多くは、実は創造の意欲は人一倍ある。興味のあることに没頭し、作り出したものをアウトプットすること。これは、精神衛生上、非常に大切な行為なのである。

それでも、いざ何か始めるにあたって課題は多い。長年の認知の偏りはそう簡単には消えてくれないのだ。

以下、ことをはじめる際に起こりがちな問題と、僕が心掛ける対策の一例。


❶ はじめの一歩

アスペルガーや不注意優勢型ADHD人は、新しい体験をすることへの恐怖が強い。普通なら何でもないようなことであっても、初めてのことには異常に緊張してしまい、相当な覚悟が伴うので、なかなかはじめの一歩を踏み出すことができない。で、グズグズしているうちに、自分ごときが……というネガティブ思考の反芻がスタート、という問題。

「考えるよりさっさと行動しようね」

発達障害当事者でもある僕の指導者の言葉はかなり効く。このアドバイスも、一見突き放したようでありながら、行動することの重要性を指摘した的確すぎる一言。
これは精神論というわけではない。心が行動を決めるのではなく行動によって心が変わることを利用して、いわゆる行動療法的に実行せよということだ。
その他、反芻する暇を作らないこと、認知を客観視するトレーニングが有効。


❷ とりあえず完成させる

完璧主義が過ぎて、手をつけたものの、なかなか完成させられない問題へ対処としては、ひとまず理想は横に置いて、取り掛かったことを最後までやってみることが挙げられる。それには、ハードルを低く、確実に超えられる高さに設定することが必要だ。まずは現在の実力にあった目先のことをやる。理想に到達するのは段階を踏んだ先だということ肝に銘じておかなければいけない。

僕が文章という形式とnoteというプラットフォームを選択したのも、現時点で自分にとってさほど無理がないと思われたからだ。その上で、言い訳するつもりじゃないが、こんな意識で書いている。でないと永遠に修正し続けるからだ。

◉ ある程度の矛盾点や説明不足には目をつぶり、
◉ 完成度は低くていいから、とりあえず仕上げる 
◉ 自己完結で構わない


❸ 続ける

基本的にアスペルガーは、一度はまると継続は得意とされている。僕もある面においてはそうだが、同時にADHD傾向がとても強い。衝動性と先延ばし癖と、周りに流されやすい側面が多分にあって、基本的には継続が苦手だ。続けなければ、当然結果は出ないもの。ADHDに起こりうる以下のような事態を避け、とにかく続けてみる意外にない。

◉ 散漫で衝動性が強い → 課題に集中できずに効率が上がらない 
◉ 一旦集中すると際限なく続ける → 疲れる、寝不足、他のタスクの停滞
◉ アイデアや発想がどこまでも広がる → 収集がつかず投げ出す
◉ やっと完成しても、すでに興味がそこにない → お蔵入りにする

対策としては、作業時間を決めて習慣化すること、締め切りを設定すること、視覚刺激を排除した作業を環境を整え、書きはじめたら基本的に資料は見ないこと、また根治療法としては抑止機能を鍛えることなどを意識している。


それと、最後にもうひとつ。
クリエイティブな仕事の際に大切なのは、この言葉を胸に刻んでおくこと。

「次がある」……。 なにも常に全力疾走しなくていいのだ。

以上、「やる気があってっも成し遂げられない問題」でした。
負のループ脱却なるかは、まだあまり自信ない。




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