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Q:「当たらない」が本当なら、廃れないのはなぜ?

A:アタリ・ハズレの判定が主観的なため、実際よりも多く「当たっている」と思う、熱心な占い肯定派がいるからです。

占いの否定派は「姓名判断なんてインチキだ」といいます。インチキかどうかはともかく、姓名判断が当たらない状況証拠はいろいろあります。[注1]

ですが、現代の姓名判断が生まれたのは明治中期なので、百年以上を生き続けてきたことも事実です。

「当たらないなら、とっくの昔にすたれていただろう。現代も生き残っているのは、やはり何かがあるからでは?」もっともな疑問です。

では、姓名判断は本当に当たらないのか?そして、当たらないとしたら、未だに廃れないのは何故なのか?これは気になりますね。

●肯定派と否定派の違いは紙一重

姓名判断に肯定的な人と否定的な人がいるのは、何が原因でしょうか。それは同じ占い結果を見て、「当たった」と思うか、「外れた」と思うかの違いです。

当たり前の話ですが、「外れた実例」をたりにして肯定的になったり、逆に「当たった実例」を知りつつ否定的になるわけないですよね。肯定派はアタリが多いと感じ、否定派はハズレが多いと感じる、それだけです。

こんな事が起こるのも、アタリ・ハズレの判定そのものが著しく主観に左右されるからです。

たとえば、占い結果に次のような内容が含まれていたらどうでしょう?肯定派はすべてアタリと考え、否定派はすべてハズレ(アタリではない)と考えるかもしれません。

① 誰にでも当てはまること
② あいまいで、どちらとも言えないこと
③ 当たってはいるが、確率的に偶然の範囲内のこと

「いくら肯定派でも、さすがに①や②をアタリとは考えないだろう。」そう思いますか?ところが案外、これをアタリと考えてしまうことがあるのです。それはこういうわけです。

●占いを気にする人、頼る人ってどんな人?

そもそも占いを気にしたり、占い師や占いサイトを頼る人とは、どんな人でしょうか。Webサイトの無料占いなら興味本位の人もいるでしょうが、多くは次のような人ではないでしょうか。

・ 不安や困難を抱えていて、希望や活路を見出したい人
・ 行動する勇気がなく、誰かに背中を押してもらいたい人
・ 自分に自信が持てず、決断や行動の指針を周囲に求めている人

このような人が占い師を訪ねるのは、自分のことを聞きたいからです。占いサイトを試すのも、自分のことを知りたいからです。

だから、①誰にでも当てはまることや、②どちらともいえないことを、自分のこととして受け止めるのです。そして「当たった」と思うのです。[*1] [注2-3]

暖簾のれんをくぐった人には何が起こるか?

肯定派と否定派のどちらになるかは、その人が最初に経験した占い結果をどう思うかで決まります。当たったと思えば肯定派、外れたと思えば否定派です。両者はその後、占いに対する評価が反対になるのです。

ちょうど大浴場の入口で、「男湯」と「女湯」のどちらの暖簾のれんをくぐるかで、行先が分かれるイメージですね。

もちろん、世の中には占いに無関心な人もいるでしょう。姓名判断の不合理な側面に気がついて、否定的になる人もいるはずです。そういう人は最初から暖簾をくぐらないので、ここでは考えないことにします。

さて、ひとたび肯定派あるいは否定派の暖簾をくぐると、いくつかの心理的な強化システムによって、この傾向はますます堅固けんごになっていきます。

この心理的強化によって、肯定派は「当たった実例」ばかりが目に付き、否定派は「外れた実例」ばかりが目に付くようになるからです。[注4]

この奇妙な現象には人間の脳の特性が関係しています。脳のはたらきには、効率性を優先して、正しい判断を犠牲にする場合があります。出来事Aのあとに出来事Bが起こると、それが単なる偶然でも、AとBの関連性を信じてしまうというのです。[*2]

そして、AのあとにBがくり返し起こったり、興奮や恐怖などの感情を伴っていたりすれば、ますます強く両者の関連性を信じるようになるそうです。

「うゎ、すごい!当たった!」と思った瞬間、その人には熱狂的な占い信者への道が開けるのです。

●姓名判断が廃れない理由

運勢占いにはたくさんの種類がありますが、中でも姓名判断は人気が高いそうです。『占い師!』の著者、露木まさひろ氏が各種資料から算出した数字によると、日本人の約20%が姓名判断の信頼性を支持しているのです。[*3]

また、学生を対象にしたアンケート調査では、この比率が一気に約55%へと跳ね上がります。若者には特に人気が高いようです。しかも、「かなり当たると思う」と答えた学生が7%前後もいるのです。これに社会人の支持者も合わせれば結構な人数になるでしょう。[*4] [注5]

姓名判断は流派が違うと吉凶が反対になります。たまたま出会った占い師や占いサイトの判断が「大吉」でも、別のところなら「大凶」だったでしょう。

それにも関わらず、「かなり当たる」と思う熱心な支持者が相当数いるのです。この人たちの好意的な評価は、明らかに「主観で歪められたもの(気のせい)」ということになります。

いつの時代にも、①不安や困難を抱えている人、②行動する勇気がない人、③自分に自信が持てない人はいるものです。なので、占い師や占いサイトを頼る人がいなくなる心配はいりません。

というわけで、実際に当たっているかどうかに関係なく、「姓名判断は廃れない」のです。

========<参考文献>========
[*1] 『なぜ、占い師は信用されるのか?』(石井裕之著、フォレスト出版、2005年)
[*2] 『わたしたちはなぜ科学にだまされるのか:インチキ! ブードゥー・サイエンス』(ロバート・L・パーク著、主婦の友社、2001年、「第2章 信じたがる脳」)
[*3] 『占い師!』(露木まさひろ著、社会思想社)
[*4] 『現大学生が示す宗教への意識と態度』(井上順孝著、「國學院大學日本文化研究所紀要 第92輯」所収、平成15年9月)

=========<注記>=========
[注1] 姓名判断が当たらない状況証拠
 詳しくはこちら⇒『姓名判断の統計データは存在するか?

[注2] 誰にでも当てはまる占い結果は、「当たっている」と思い込みやすい
 このような傾向は、タロットカードを使った実験などで確認されている。
 詳しくはこちら⇒『当たったのか?当たった気がしただけか?(1)

[注3] 驚きの「占いテクニック」
 『なぜ、占い師は信用されるのか?』(石井裕之著)によれば、占い師、教祖、霊能者が使う「コールドリーディング」というテクニックがあるという。言語的・心理的なトリックを使って、初対面の人の過去や現在を言い当てたと思わせるのだ。
  そのひとつ、ストックスピールというテクニックでは、誰にでも当てはまることを、できるだけ曖昧に表現することで、依頼者は「当たっている」と思い込む。
 たとえば、「家族に関する心配事がありますね」とやると、「父親の病気」かもしれないし、「甥っ子の受験」かもしれない。全員がまったく問題を抱えていない家族は存在しないので、何らかの心配事にはヒットするという仕掛け。

[注4]その情報を受け入れるか、無視するか(情報の選択)
 脳は、新しい情報がすでに信じているものと一致すれば受け入れ、矛盾すれば受け入れない。
 その結果、肯定派は「当たった実例」だけに、否定派は「外れた実例」だけに着目し、またそれらをより強く記憶することになる。これらは心理学で「確証バイアス」「記憶バイアス」として知られている。
※詳しくはこちら⇒『当たったのか?当たった気がしただけか?(1)

[注5] 「占いの信頼度」調査
 『現大学生が示す宗教への意識と態度』(井上順孝著)によると、1995年、1999年、2000年の調査では、姓名判断の信頼度は以下のような結果であったという。なお、(++)は「かなり当たると思う」、(+)は「当たることもあると思う」、(-)は「当たらない」、(?)は「わからない」を意味し、(++)と(+)の合計を「信頼性を支持する」比率とした。
  1995年 (++)5.9%、(+)53.1%、(-)34.8%
  1999年 (++)7.6%、(+)47.9%、(-)35.1%
  2000年 (++)7.0%、(+)49.2%、(-)31.0%、(?)12.5%

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