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年森瑛「N/A」を読んで


こんにちは。
今回は、年森瑛さんの「N/A」という小説を読んだのでその感想を書きたいと思います。この作品は、第127回文學界新人賞の受賞作品です。私は、ニッポン放送のポッドキャストで石井玄さんと小御門優一郎さんがやっている「滔々あの夜噺」にて紹介されていたのがきっかけ読もうと思いました(以下リンクの26分台から)。全エピソードを聴けているわけではありませんが、面白いのでこちらもぜひお聴きください。

新人賞での評価&あらすじ

「N/A」は新人賞で全会一致で賞を取ったということで話題になった、らしいです。私は、文學界5月号に掲載されているらしいというのでバックナンバーで読みました。「文學界」内では、審査員の方のコメントも紹介されていて、(読んだ人の文によると)実際は途中で評価の変更等があったとかなかったとかの経緯が書かれていましたが、どの候補作も優秀で悩んだそうです。その中をくぐり抜けてるだけにやっぱ面白いなと思いました。

主人公は、女子校に通う高校2年生の松井まどか。女子校内でクールキャラとして仮初めの男性として扱われている。大学生の女性と恋人に準ずる関係にあるも、自分の思う「かけがえのない他人」ではないと疑問を持っている。

以下の項目はネタバレを大いに含むので、スペースを開けています。
あしからず。








感想(ネタバレ含む)

満遍なく問題を抱えている

主な登場人物は、まどか、まどかの友達2人、母、まどかの恋人(?)です。まどかは世間が言う「恋人」と自分の思う「かけがえのない他人」は違うと思っていて、それをまどかのフィルターを通して書く作品かと思っていました。しかし、後半でまどかの友達が新型コロナウイルス関係で進路を迷ったり、まどかと恋人(?)の間で恋愛観に違いがあったりと登場人物がそれぞれ問題を抱えていて、それぞれその問題を抱えているフィルターを通して判断しているのだなというのが分かる書き方をされているので、物語に複雑味があって面白かったです。

若干、余談ですが、物語を自分も多少は思いつくのではないかとペンをとったことがあります。実際にやってみて、登場人物は主人公の心情を引き立てるために構成しちゃいがちだなと思った経験があります。その点で、「N/A」はどの登場人物もサブじゃないと感じました。料理番組でよくある野菜を使った肉料理で「野菜も主役になってます」みたいな状況です(笑)

叙述と感情のバランスが心地よい

物理的な行動の描写とその行動に付随した主人公の感情のバランスが心地いなと感じました。個人的には、比喩などがすごい好きだなと感じました。文章を分の複雑さで二分するなら、「しっくりきて面白い」と「複雑だけどぶつかっていって面白い」のしっくりきやすいタイプの文章だと思いますし、すごく臨場感を感じました。

女子高生感

これは、「滔々あの夜噺」でも小御門さんがお話しされていましたが、いわゆる若者言葉がちゃんとアップデートされた状態で使われているということです。私は、そういった若者言葉に明るくないので、果たしてそれが適切な使い方をされているのかは検証のしようにもできませんが、メディアで見るあの、みたいな状態でした。若者言葉は、特にメッセージアプリの描写で使われていて、「り」(了解の略)が多用されていました。こういった略語が使われるテキスト上でのやり取りのシーンと会話で見られる普通の話し言葉の比較したときに、テキストでのやり取りの方がスピード感を感じられたのが印象的です。

ちなみに、ネット情報でどこが情報源かはわからないですが、年森さんは1996年生まれだそう。2022年時点で28歳(誕生日などで前後する)ぐらいだからちゃんとリサーチしたのかあ、と思ってみたりして。

最後に

最後までお読みいただきありがとうございます。
投稿の時点では、以下のサイトで途中まで読めるので試し読みして検討できます。

文庫本の方も貼っておきます。

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