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12月3日~12月9日 政府の方針+アンミカ

新しく就任した首相は、政府の方針を公共放送で全国民に向けて高らかに宣言した。

“日本列島総ポジティブ化計画”

日本中に困惑が走った。

未来の日本は追い込まれていた。少子高齢化はもとより、経済力や技術力、学力の面でも今は中国、インド、韓国に抜かれ、アジア4位のポジションに定着していた。スポーツの分野でも、かつての選手強化の貯金が尽き、新しいスター選手が発掘できておらず、昨年開催されたインドオリンピックではメダルを一枚も獲得することができなかった。そんな風潮もあり、かつて日本人の誰もが抱いていた“ジャパンアズナンバーワン”の誇りは失われ、この時代の若者は無希望世代なんて言われている。そんな彼らがすぐに口にするのは“どうせ”、“私なんか”という後ろ向きな言葉ばかり。

そんな最強暗黒時代に立ちあがったのが松岡首相だ。彼は比類なき性格の明るさと圧倒的な決断力と行動力で、初当選からわずか3年で首相の座に就いた。新首相となった彼は、秘密裏に開発された日本の極秘兵器を国民に使用することを決断する。その名も、

”ブレーンウェーブコントロールシステム(以下BWCシステム)”

生き物というのはロボットと同じで、脳から発せられた電気信号が複雑で入り組んだニューロンを介して体中に伝えられ、それにより身体各部が機能することで活動している。そのメカニズムはまさに神秘であり、未だに人体の仕組みを完璧に解析できた国は存在しない。日本を除いては。

国内の最高峰の研究者を集めたジャパンネオレボリューションチーム、通称JNRは思考・運動に影響する電気信号、そしてニューロンの伝達体系の完全解読に成功する。それを利用してBWCシステムが開発された。これを使えば人間を思うままにコントロールでき、また潜在能力のリミッターを外し、いわゆる超能力と言われる類のものが引き出せるようになるとともに、一般人でもオリンピアン並の力を引き出すことも可能にした。映画のような話だが現実の話だ。

しかし、研究者の努力の結晶であるこの世紀の大発明は長らく使用されることはなかった。なぜなら、倫理上の問題と日本の悪しき習慣“前例主義”のせいで、使用する勇気を持ったリーダーが現れなかったからである。

松岡首相の目的は日本人のマインドを変えること。自分のように列島全員がポジティブ思考になれば日本は変わると確信していた。

何をするにも最高の未来を想像し、その実現に向かって積極的に進んでいく。さらに、失敗を恐れないようになることで迷いがなくなり、決断力・行動力も向上する。そして、その能力向上が可能にした超速PDCAにより、ブレイクスルーが多く生まれる。

そんな輝かしい未来を彼は夢見た。

その初めの一手として、テレビ放送を利用することにした。日本列島総ポジティブ化計画の宣言を行う放送にはBWCシステムが使用され、その放送を見た人すべてをポジティブ思考に洗脳した。映像は、公共放送からネット番組、SNSまであらゆるメディアで拡散され、日本のほぼ全員の脳内がポジティブ思考に書き換えられた。

作戦はうまく転がっていった。一度行動し始めれば、能力を惜しみなく注げるのが日本人のいいところである。迷いがなくなった日本は強かった。開始から5年後で、経済、技術、学力、スポーツ、あらゆる分野で中国を追い越し、世界2位の大国にまで復権した。

だが、この作られた思考改革に気づき抵抗する勢力が生まれてきた。それが“アンチポジティブアソシエーション”通称アンポジ。アンポジは世界中にこの事実をリークし、人権侵害を訴え、第二次松岡政権を糾弾しようとした。そしてそれを受け、洗脳が溶けた一部の国民は暴徒化し、国会議事堂を占拠しようと第三次アンポ闘争が起こす。

しかし、それらの抵抗はあっけなく鎮圧される。今や敵なしの松岡首相には蚊に刺された程度であった。拘束されたメンバーは直ちに、強制ポジティブ化が行われるある部屋に隔離された。

“精神とミカの部屋”

その部屋ではポジティブの化身であるアンミカのあの言葉、“ハッピー、ラッキー、ラブ、スマイル、ドリーム”の声が延々とBGMとして流され、そして部屋一面に貼ってあるアンミカカレンダー、同時に流されるポジティブ思考に洗脳する電波。そんな過酷な環境で全員がポジティブに陥落する中、最後まで耐え抜いた男が一人。

この時点では、この男が日本を第三の世界へ導く存在になると誰も気づいているものはいなかった。ネガティブを越え、そしてポジティブを越え、辿り着いた聖人君主の思考、“無の境地”。数分後、“ゼロ”といわれる革命家が覚醒する。

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