忘れたい思い出
『今日暇してる?』
そんな連絡が来ないかなぁって
淡い期待を抱きながらバスに揺られていた。
仕事終わりの19時48分。
誘うには少し躊躇ってしまう時間。
明日から休みだから遊びたいなぁって
けど、誘うのはちょっと…
ピロンっ
スマホの通知がなり、ふと目線を落とすと
明日の天気予報だった。
なんだよ。期待しちゃっただろ。
ここまできたらどうにかして誰かと遊びたい。
久々に飲み明かして狂ってしまいたい。
ついこないだまで仲間たちと楽しい夜を舞い踊っていたのに。
意地になってトークの履歴を見返してみると
元バイト先の好きだった先輩の名前があった。
今頃何してるんだろう
私とはふたつ歳が離れていて、私が生意気なこと言ってもそれに対抗してくるような
そんなバカで素敵な先輩だった。
もうしばらくは会えないし。
好きって伝えて
叶わないのは分かっていて。
思わせぶりにみえて
本当は傷つけないために優しくしてくれてるんじゃないか、とか。
けどほんとは違くて、自分の自己肯定感のために、好意を向けてくれてる子を側においてるだけなんだ、とか。
余計なことしか考えられなかった。
ああ。最悪。こんな時に見たくなかった。
会いたくなっちゃうじゃん。
あんなに傷ついたんだからもう十分でしょう?そろそろ気づけよ自分。バカ。
なかなか切れないLINEのトークを
忘れようとして何度も非表示にしようとしたけど
無理だったの。
私の通る道やお店が、全部先輩との思い出の一部になっていて、忘れさせてくれないの。
こっちだって
忘れられるもんなら忘れたい。
不毛な会話をしながらコンビニに寄って
あったかいほうじ茶を買って
そのままずーっとまっすぐ歩く。
「今日は帰るからね!わかった?
俺、明日だって忙しいんだから。」
「えーうそだ。今日はどこまで来てくれるんです
か?笑」
「あの辺かな」
「あーあの辺ねっ」
うだうだ言いながらも
なんだかんだついてきてくれて
2人でよく座って話したなぁ
冬なのに。
コンビニで買ったお茶で暖をとりながら
どうでもいい話をずっと。
ペットボトルのほうじ茶だけでは
暖がとれないから
「寒い」っていいながら
私の肩に触れて
嬉しそうにするの辞めなさいって。
そんな顔でこっち見ないのって。
私、そんな嬉しい顔してたのか
思い出してしまう。
いやでも目に入ってしまう。
耳に残っている。
出会いと別れの季節。
早く次へ進みたいのに
先輩との思い出がわたしの裾を掴んで離さない
そんなことを考えていたら
最寄駅に着いていた。
今日はビールを買って、
1人で映画でも観て大好きだった先輩への感傷にでも浸ってやるか。
そんな夜もまたいいかもしれない。
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