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食の力〜祖父の入院〜

病院は闘病するところであって、療養するところではない。だから、寝具や食事について不平を言うことはよくない。ホテルでのんびり過ごしているのではないのだから。

しかし数十年前、祖父が事故に遭って入院したときの食事は、それにしても変だった。祖父は重傷で、頭蓋骨は割れ、肋骨は折れて肺にささり、足も折れていた。なのに、食事は「ラーメン」や「パン」だったのである。

「胃はなんともないから、ラーメンでいいでしょ、だって。食べれるわけがないよ」と祖母は怒った。不思議な祖父の病院食は祖母の猛抗議の結果、「ラーメン」から「おかゆ」になった。しかしながら、重傷の祖父はおかゆを食べるのもつらそうだった。そもそも祖父は偏食なのだ。祖母は祖父のために副菜を用意し、病室に持ち込むようになった。薄味の煮物が多かった。私も食べさせてもらった。祖父の看病をし、祖父のために料理を作る祖母は、ちょっと充実した雰囲気を漂わせていた。

病室の外では、両親が祖父の職場の人たちと葬儀の相談をしていた。祖父が危篤状態に陥り、親戚が集められたこともあった。祖父はもう助からないだろう、助かっても寝たきりだろうと皆が言った。私もそう思っていた。

しかし、祖父は復活した。毎日リハビリに励み、退院すると仕事にも復帰した。海外旅行にも行った。趣味を満喫し、好きなものを食べ、事故から6年後に亡くなった。充実の6年間だった。

祖父が復活できたのは、祖父の気力や体力によるものだろうが、祖父に好物を食べさせようと必死だった祖母の力も大きかっただろう。私も祖母のように家人のために食事を用意していきたい。

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