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「ラモックス」を思い出す

怪獣のラモックスに出会う

子供の頃、SF小説が大好きだった。きっかけは前回書いた。

特に小学校の図書館は素晴らしかった。いろいろな学齢の子どもに読めるように、様々なレベルの子供向けSF小説が置いてあった。挿絵が多い、ざっくりした内容の本を読んだ後、別のシリーズでもう少し細かく読むこともあった。
その中でも、今でも私の好きな小説が「ラモックス」である。小学校の図書館には「宇宙怪獣ラモックス」という題名で置いてあり、表紙には恐竜の親戚みたいな宇宙怪獣ラモックスの姿が描かれていた。
この後はネタバレであるが、まあ許していただきたい。

未来の物語である。地球人も宇宙旅行をし、異星人と交流している。「ラモックス」は宇宙を旅していた男が捕らえてきた宇宙動物で、何でも食べ、片言で地球語をしゃべる。長命で、男の息子、孫(主人公の少年)が代々ペットとしてかわいがっている。ある日、ラモックスは隣人とトラブルをおこし、追われることになる。飼い主である少年はラモックスを連れて家を出る。その頃、地球政府は、とある異星人の要求に悩んでいた。彼らは自分たちの王女が地球人に誘拐されている、ただちに返せと言うのだ。そんな心当たりはないのだが……。
どう見ても恐竜の親戚で、たどたどしく話すラモックスこそ、異星人であり、例の王女様だった。彼らは非常に長命であり、その分、成人するまでに時間がかかる。少年の祖父が捕らえた(誘拐した)時は、本当に幼い頃であり、その後もゆっくり成長していたのだ。ラモックスは母星に帰ることになる。「竹取物語」のように。

なんといっても面白かったのはラストである。
「竹取物語」とは違い、ラモックスは飼い主の少年を自分の母星に招待する。少年は喜んでこの申し出を受ける。ラモックスは更に少年のガールフレンドにも一緒に来てほしいと言ってくる。その時、ラモックスの認識が明らかになる。ラモックスは地球で「ペット=少年の祖父、父、少年自身」を飼っているという認識だったのである。ペットはつがいで飼わなければ繁殖しないことも分かっていた。ラモックスが母星に帰る際に少年と少女を招待したのはつまり、そういうことである。少女はこのことを少年には内緒にしておこうと決意する。

互いが互いをペットだと認識していたということになるが、第三者が見たらどうだろう? 地球人よりもはるかに高い知能を持ち(語学はいまいちのようだが)、はるかに長命のラモックスの方を飼い主だと判定するのではないだろうか。

自分の方から見ているものだけが真実ではないということを、小学生の私に教えてくれた作品である。

その後、大人向けの「ラモックス」も読んだ。面白かったけれど、挿絵のラモックスが可愛すぎた。小学校の図書館の挿絵(恐竜の親戚)の方がインパクトがあってよかったんだけど。
でも、私はこの面白い小説を翻訳してくださった大森望さんという方の名前を覚え、どこかでこの方の文章を見つけると「ラモックスの人だ!だったら間違いはあるまい」と思うようになったのである。

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