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SF小説との出会い

みかん箱

子供の頃、盆と暮れには親戚が集まった。その時、叔父たちはみかん箱くらいの大きさの段ボール箱を車から下ろす。父も段ボール箱を持ってくる。3人で中身を確かめ合う。
中に入っているのは文庫本だ。白いカバーがかけられているので中身は見えない。(ちなみに白いカバーはカレンダーを裏返しにしたものである。こういう細かい作業が得意な叔父の手によるものだと思われる。)
3人は互いの本を交換する。そして読みふける。
何もない田舎である。ずっと畑仕事をするわけにもいかず、ずっとテレビを見ているわけにもいかない。酒を飲むのも限度がある。持て余し気味の時間は読書となっていた。
私も中にある本を見てみた。「ペリー・ローダン」シリーズだった。「おもしろいぞ、お前も読め」と言われたが、興味がわかなかった。
ところが中に、私も読みたいと思える本が混じっていた。

火星のプリンセス

小学生の頃、図書館でエドガー・ライス・バロウズの「火星のプリンセス」を借りた。女の子向けのシリーズの一冊だった。なんで「火星のプリンセス」が女の子向けなのかと思う人もいるかもしれないが、表紙に大きく描かれたお姫様(デジャー・ソリス)の瞳の中にはお星さまが光っていた。私は表紙のお姫様に惹かれて読んだのである。少女漫画風の挿絵で、ジョン・カーターもイケメンだった。タルス・タルカスもかっこよかった。
その後、図書館の別の場所で「火星のプリンセス」を借りた。SFコーナーだった。最初に借りた本よりも内容が細かく、面白かったが、挿絵がイマイチだった。最初に手を取ったのがこちらの本だったら読まなかったかもしれない。
さて、みかん箱にも「火星のプリンセス」が入っていた。これは大人向けである。これなら読みたい! さっそく読み、夢中になった。
女の子向けの「火星のプリンセス」と違い、ジョン・カーターは渋い男だった。デジャー・ソリスは艷やかな美女になっていた。私はジョン・カーターの冒険を堪能し、次々と火星シリーズを読破していった。更に金星シリーズ、ターザンシリーズと読みすすめていった。
まあ、話の展開はすべて同じだ。無敵のヒーローの冒険と、美女との恋、仲間との友情。なのに面白かった。「火星のチェス人間」を読んだときなど、感動のあまり実際に火星のチェス盤を自作してしまったほどだ。(単なる暇人とも言う。)

本棚を制覇するぞ

みかん箱の中のほとんどは「ペリー・ローダン」シリーズである。じきに読むものはなくなった。でも困らない。みかん箱に入れられる前の本のありかを知ってしまったからだ。父の本棚の半分くらいがSF小説であることに、私はこのとき気がついた。父は独身の頃、SF小説にはまっていたらしい。
古い古いSF小説をわくわくと読みふけった。家族は「そんなものより、もっと高尚な本を読めばいいのに」と嘆いたものの、そもそも父の蔵書なのだからそれほど文句は言わなかった。
星新一も安部公房もおもしろいよ! アシモフもいいよ! 「ドウエル教授の首」って本当はこんな小説だったのか! 小学校の図書館にあったものとは違うよ! 「冷たい方程式」もいいよ! 
蚕が桑をミリミリと食べるように、本をミリミリと読み続けた。父や叔父たちに負けないほどに。
更級日記の作者のように、読書に夢中になっていた自分を懐かしく思い出す。


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