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世界でひとつの読書感想文を書く5ステップ

この記事では、読書感想文を、3時間ほどで書き上げるプロセスを紹介します(清書はのぞきます)。
ご家庭で取り組む際の参考にしていただければ幸いです。

なお、このプロセスは、「穴埋め式」や「パターン」に当てはめるものとは異なります。
お子さまご自身のことばを、小さな断片からだんだんと大きくふくらませていき、まとめあげていきます。
このため、大人のサポートを前提としています。

少し大変かもしれませんが、ありきたりな作文ではなく、今しか書けない、世界でひとつの読書感想文を書き上げましょう。


準備するもの

  • えんぴつと消しゴム

  • 小さなふせん(長方形)

  • 中くらいのふせん(正方形)

  • ふせんを貼るための大きめの紙

  • 400字原稿用紙

  • (できれば)パソコン

ステップ0 「読む」

最初のステップは、本を「読む」です。
本は、課題図書でなくてもかまいません。また、必ずしも、新たに読む必要もありません。自分の心に残る本を選ぶのが一番です。

何を読んでいいのかわからない、という時は、読書感想文コンクールの課題図書などを参考にしてください。その一冊が、自分の心に合った本かどうかはわかりませんが、スポーツが好きならスポーツを題材にしたもの、恋をしているなら恋愛ものと、自分とのつながりを感じるものを選ぶとよいでしょう。

サポートする方へ

読書感想文をサポートする方も、できるだけ、同じ本を読んでください。そうすることで、本を介したコミュニケーションが深まります。お子さまへの心からの共感が、文章を書く時の何よりの励ましになります。

ステップ1 「ふせんを貼る」(20分)

読み終えたら、制作開始です。
まずは、自分の心が動いたページにふせんを貼りましょう。

どきどきした場面、心に残ったセリフが書かれたページ、腹が立ったできごと、思わず笑ってしまったところなど、何でもかまいません。

数ページに渡る場合は、最初のページに貼るだけでかまいません。

本の長さにもよりますが、3~4箇所貼れれば十分です。どのページにもふせんを貼ることができなかったら、もしかすると、別の本にしたほうがよいかもしれません。

サポートする方へ

読書感想文には、「こう書かなければならない」というルールはありません。まずは、お子さまの自主性に任せてみましょう。

ステップ2 「場面について書き出す」(40分)

ステップ1で貼ったふせんのページを開きます。
中くらいのふせんに、その場面で思ったことを書いていきます。メモですから、ふせんに入るくらいの文字数でかまいません。また、ふせんを何枚使ってもかまいません。

書けたふせんは、大きめの紙に貼っていきましょう。
なお、ふせんは、のりがついたところを下にして書くと、スペースをつめて貼ることができます。

このステップで気をつけることは、本の中のできごとだけでなく、「自分」の感じたことや「自分」の体験を書くことです。
本に書いている内容と、それについて自分が感じたことを、セットで書くようにしましょう。

発想を広げるのが難しければ、次のような質問を思い浮かべましょう(あるいは、優しく質問をしてあげましょう)。

  • その場面を読んでどう感じた?

  • それはなぜ?

  • もし、あなたがその場にいたらどうしたい?

  • 似た体験はある?

ステップ1でふせんを貼ったすべての場面について、メモを作っていきます。発想を広げるステップですので、どんな内容でもかまいません。

サポートする方へ

車が、アクセルとブレーキを同時に踏むとこわれてしまうように、人の脳も、「発想」と「統合」を同時にすることはできません。
このステップは「発想」することが大切ですから、お子さまがストレスを感じないよう、できるだけリラックスした雰囲気で取り組みましょう。

また、特に小さい子は、自分の気持ちに意識を向けたり、自分に問いかけたりといったことが、まだまだ難しいことがあります。
そんな時は、お子さまの話すことに共感を示しながら、代わりにふせんにまとめてあげましょう。

休憩(5分)

ここまで、順調にいけば1時間くらいです。
タイマーをセットして、休憩しましょう。
飲み物を飲んだり、おやつを食べたり、伸びをしたり。
ちがう部屋に行ったり、窓を開けて外の空気を吸ったりするのもおすすめです。

ステップ3 「グループにして、関係をつくる」(20分)

グループをつくる

制作を再開しましょう。
ステップ2が終わった時点で、大きめの紙には、ふせんが何枚も貼られていると思います。

そのふせんを見渡したとき、似た内容のものがありませんか? もしあれば、ふせんの場所を動かしてグループを作ってあげましょう。
同じ言葉が出てくるふせんは、同じグループになる可能性が高いです。

グループができたら、集まったふせんの周りをぐるっとえんぴつの線で囲み、線のそばに、そのグループの名前を書きます。

ふせんが少なくてグループができない時は、ステップ1に戻って、もう一度本を開き、心に残る場面がないかを確認しましょう。

グループ同士の関係を考える

いくつかグループができたら、紙全体を見て、グループ同士で関係がつくれないか、考えてみましょう。

たとえば、上の画像は、『髪がつなぐ物語』(別司芳子、文研じゅべにーる)を読んでまとめたメモです。
「ある男の子がヘアドネーションのために髪を伸ばしたエピソード」と、「自分がヘアドネーションをした体験」から、改めて、髪を伸ばすことやそれを維持することの大変さを考えました。また、そうした善意がたくさん集まって、ウィッグをつける人が「ふつうの生活」にほんの少し近づけることを話し合いました。
この時点で、作文の流れが大まかに見えてきます。

どのようなグループができるか、どんな関係になるかは、たとえ同じ本であったとしても、個人差があります。

サポートする方へ

このステップでは、ステップ2で広げた内容を、グループに統合していきます。

内容を統合して作文のテーマを導き出すのは、小学校高学年以上にならないと難しい作業です。ぜひ一緒に取り組んで、サポートをしてあげてください。同じ本を読んでいれば、より深く話し合うことができます。

自分でも思ってもみなかったつながりが見つかることもあります。お子さま自身が気づいていない、隠されたメッセージを一緒に発掘する楽しさを、大切にしてください。

ステップ4 「グループごとに原稿メモを書く」(40分)

原稿用紙を用意します。
ステップ3でつくったメモのグループを、それぞれ、原稿用紙に文章にしていきます。

ひとつのグループあたり、100字~400字が目安です。
ふせんの内容を書き写すというより、ふせんを参考にして、新しく文章を書くという意識で取り組みます。

書かないメモがあってもかまいません。また、新たに文章を追加してもかまいません。

特に自分の体験は、できるだけくわしく・具体的に書きましょう。自分の体験が書けるかどうかが、作文のできを左右します。

  • 「いつ、どこで、だれが、どうした」

  • 「どんなふうだった」

  • 「他の人の反応はどうだった」

  • 「もしも」

などを使って発想を広げましょう。

サポートする方へ

原稿用紙が出てきた途端、固まってしまう子がいます。
これはまだ単なるメモであり、清書ではないこと、後でいくらでも書き直せることを伝えましょう。清書は、メモとは異なる作業です。メモは、多少字が汚くても、漢字が間違っていても、問題ありません。
また、どう書いたらいいのかわからない様子があれば、一緒に考えてあげましょう。
次のような質問を、もう一度くり返してみてもよいかもしれません。

  • その場面を読んでどう感じた?

  • それはなぜ?

  • もし、あなたがその場にいたらどうしたい?

  • 似た体験はある?

休憩(5分)

ここまで、2時間ほどです(内容によっては、もっとかかるかもしれません)。
大変だったと思いますが、これで、作文の大まかな材料はそろいました。
最後のステップに向けて、休憩をしましょう。
時間に制限がなければ、20~30分の長めの休憩にしてもいいですね。

ステップ5 「全体の流れを決め、足りないところを補う」(50分)

原稿メモを机に並べて、作文全体の流れを考えてみましょう。そして、足りないブロックを補います。

「まとめ」「書き出し」「あらすじ」

まず、「まとめ」「書き出し」「あらすじ」の順に、原稿メモを書いてみましょう。

まとめ
「まとめ」は、作文の最後にくる重要なブロックです。本から学んだことや、考えたことの結論など、最も伝えたいメッセージをまとめます。そして、最後に、未来に開かれた宣言で終わります。
最後の一文は、「これからも、~」「いつか、~」などから書き始めるのもよいでしょう。

 ぼくは、主人公と「どっちでもいい」と言ってしまうところが似ている。そして、似ているからこそ、ぼくも主人公のように成長できるかなと思った。ぼくは、なかなか決められなかったら、両方とももらってしまえばいいのではないかと思う。決められないのなら、全部もらってもいいし、試してもいい。これから、ぼくは、勇気を持って、「どっちもいい!」と言えるようになりたい。

まとめの例

書き出し
「書き出し」は、「まとめ」を書いてから考えます。「まとめ」とつながるような呼びかけや問いかけ、本文のセリフの引用などからスタートすると、印象的な書き出しになります。

「みなさんは、~について考えたことがありますか。」といった読者への問いかけや、「~。この言葉が、最も印象に残っています。」といったテーマの提示などが、例として挙げられます。

 みなさんは、どんなパンが好きですか。わたしは、めんたいこバターパンが好きです。家で作ったり、学校の近くにあるパン屋さんで買ったりします。

問いかけから書き始める例

体験から書き始める場合は、書き出しはなくてかまいません。

 三年生の時、お母さんに、「どっちのケーキがいい?」と聞かれた。ぼくの好きなチョコレートケーキと、ショートケーキだ。ぼくは「どっちでもいい」とこたえた。両方とも好きだから、決められなかった。だから、お母さんに決めてもらった。

体験から書き始める例

あらすじ
「あらすじ」は、必要最低限の文字数でかまいません(なくてもかまいません)。ここまでのステップを通して、書きたいことは見えてきたはずですので、そのために必要な情報だけにします。

なお、本のカバーなどに載っている紹介文を写すのはやめましょう。「自分のことを、自分のことばで」が、作文の原則です。

しあげ

ブロックがすべて書き上がり、順番が決まったら、ブロック同士が自然につながっているかをチェックし、必要に応じて接続詞などを書き添えます。

最後に、全体の添削と、文字数の調整をします。
文字数は書いてみるとどうしてもずれてしまいますので、できればパソコンの使用をおすすめします。

文字数が多すぎる場合、まずは、あらすじなど本の内容についての説明を短くできないか考えましょう。読者が読みたいのは、書き手の考えたことや体験であり、本の内容ではありません。
また、同じ表現のくり返しなどに注目して、省略できるところを探しましょう。

文字数が少なすぎる場合は、内容をふくらませます。よりくわしく、具体的に書けるところがないか探しましょう。

  • 「いつ、どこで、だれが、どうした」

  • 「どんなふうだった」

  • 「他の人の反応はどうだった」

  • 「もしも」

などを使って発想を広げましょう。

文字数は何文字か、タイトルや名前を文字数に入れるかなど、学校によって条件が異なりますので、配られたプリントなどを確認しましょう。

パソコンがある方へ

このステップは、パソコンでサポートをすると、とても効率的に進みます。ステップ3・4で書き上がった原稿メモを、どんどんパソコンに打ち込んでいきます。この時、お子さまと話し合いながら、同時に文章の添削を行い、流れをつくっていくとよいでしょう。

パソコンであれば、段落を移動させることも、途中に文章を追加することも、削除することも、自由にできます。また、ワードの原稿用紙設定機能を使えば、400字原稿用紙に書いたときの文字数がそのままわかりますので、大変便利です。

サポートする方へ

このステップでは、これまでバラバラだったブロックを、一つの作品としてまとめ上げていきます。
それぞれのブロックのつながりを考えるためには、どうしても大人のサポートが必要となります。
特に、「まとめ」については、時間をかけて話し合ってもよいでしょう。
それぞれのブロックはお子さまご自身が書き上げたものですから、その表現を大切にまとめていきましょう。

清書

ここまでで、大体3時間です(もちろん、もっと時間をかけることもできます)。清書は、ここまでに書き上げた原稿を、一つの作品として書き上げていきます。

サポートする方へ

小さな子にとっては、字を書くのも大変です。集中力が切れてくるとミスも起こりやすくなりますから、休憩をとりながら進めましょう。

ステップ5でパソコンを使っている場合は、原稿用紙設定でプリントアウトしておくと、清書が格段にやりやすくなります。

清書が書き上がったら、お子さまと一緒に完成をお祝いしましょう!

世界でひとつの読書感想文を

ここまで、読書感想文を書く5つのステップを紹介しました。
発想と統合を繰り返す作業は、決して楽ではありませんが、作品づくりに正面から取り組むために、広く用いられるプロセスです。

読書感想文は、多くの子が苦手とする宿題です。
それは、ことばと発達の関係からすると、読書感想文は、小学生が一人で書くには難しい課題だからです。
そのため、一人で書くための「穴埋め式」や「パターン式」のメソッドがよく紹介されるのですが、それだけでは、自分の作品にならないばかりか、読書感想文を単なる面倒な作業にしてしまいかねません。

本来、本を読み、そこで感じたことを表現し、他者と共有することは、とても楽しいことのはずです。
いきなり文字にするのが難しい場合は、まずはリラックスして話し合ってみましょう。
教えるのではなく、ともに感じ、ともにことばを探り、ともに深めていくことができれば、世界でひとつの読書感想文が書き上がるはずです。



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