4月のメダカ

京都を拠点に文章を書いています。 友人からメダカを5匹譲り受け、一緒に暮らすことになり…

4月のメダカ

京都を拠点に文章を書いています。 友人からメダカを5匹譲り受け、一緒に暮らすことになりました。

最近の記事

この時代にフロイトを読む意味

私が初めてフロイト全集を手に取ったのは、大学4年生の春休みだ。 心理学の授業で「大学に来て心理学を学んでいるんだったら、フロイトくらい読んでおいたらどうですか」とある教授が言った。その教授はとてもシャイな人という印象があった。その先生がかなり感情を込めて「フロイトくらい」と半笑いで言ったことが妙に心に引っかかり、図書館でとりあえず全集をコンプリートしようと思いたった。当時の私は将来の道を試行錯誤しており、何か自分の指針になるものを探していたのかもしれない。海外旅行に行く友人に

    • あしのうらがつながる

      子どもの頃の母の思い出。 歌っている。歌いながら料理をしている。パッチワークをしている。本を読んでいる。そう、彼女は色々なことが好きだったが、中でも本が好きだった。ジャンルは問わずの乱読だったが、いわゆる児童書も「面白い」と楽しそうに読んでいた。私は、私の好きな本を母が子供扱いせず一緒に面白がってくれるのが嬉しかった。 私が子育てをするようになると、母は絵本を時折送ってくれるようになった。それも、私や兄が子どもの頃に読んでいた絵本である。約半世紀前に出版されたそれらの絵本は

      • 侘び寂びの伝え方

        実家から一葉の写真が送られてきた。 前列中央には和服姿の男性数名が扇子を手にして椅子に座わり、その後ろにおよそ50名ほどの和服姿の若者たちが写っている。最後列の4名だけが男性、残りは女性だ。 今から20年ほど前に「不審庵※ 短期講習会」に参加した時の写真だった。 残暑厳しい京都で7日間行われるガチの茶湯合宿である。講師は家元に所属する教授陣だ。当時通っていた茶道教室の先生から「参加されてみたら?貴重な経験ですよ〜。何しろ、本家本元の不審庵でお点前を教えてもらえるんですからね

        • 林智子「そして、世界は泥である」

          本展を体験する前は、そのタイトルから「泥々した」「黒々とした」空間を想像していた。足を踏み入れるのをためらうような。 だが、この展示は実際のところ美しかった。 最初の展示室では、グラスに詰められた深泥池の水と泥に迎えられた。そのグラスがなんともレトロで雰囲気が良い。 部屋には淡いピンクのオーガンジーの布が揺れる中、泥水と落ち葉をたたえる鉄桶が置かれている。グラスに詰められた小宇宙を、鉄桶で上から見せてもらったような。 水面には虹色の皮膜が貼っている。この皮膜、確かに実際の水

        この時代にフロイトを読む意味

          家の中が片付かない、故に選んだ茶室。

          茶室のような空間に身を置きたい。 そう言ったら、「無理でしょ。靴下を脱ぎっぱなしにする旦那がいて、小さな子ども達がいて」と友人には笑われ、保育士さんには「子育て中だから無理しないで。食べること、育つことを優先して・・・」と温かくたしなめられた。 私は、モノがたくさんあるとバグってしまう。靴下、絵本、あやとり、ぬいぐるみ。そんなものが落ちている玄関先でイライラして、靴を脱ぐなり「もう!」と乱暴に片付け始める毎日だ。味わいのある(つまり、古い戦前の)小さい貸家の中で自分のスペー

          家の中が片付かない、故に選んだ茶室。

          ある春の日に

          20年ぶりに茶道を再開した。 高校、大学の茶道部時代から、あっという間に月日が過ぎた。 若い頃は「お茶の先生になりたい」と思っていたこともあった。 お茶室で誰かと一緒に「お茶を点てる」「お茶を飲む」時間が好きだったことは間違いない。 けれど、就職を機に辞めた。 その頃の私には人間関係や昇級制度などが窮屈に感じられて自分が茶道を続ける意味を見失っていたし、何より土日休みではない職場だったので現実的に通えなかった。 話は飛ぶが、九州に暮らす私の祖母は子育てが終わってから茶道に

          ある春の日に