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人が「人間」として真の意味での自立を果たすとき

私には娘がいる

1歳のとき、インフルエンザにかかり41度を超える高熱を出したので、大急ぎで病院に連れて行った

けれど私の心配とは裏腹に、待合室のソファーで娘は、頭をふらふらさせながらも

一本のえんぴつを震える小さな手でしっかりと握りしめ、黙々と紙きれに絵を描き続けた

そして名前を呼ばれ、診察室で聴診器を胸に当ててもらっている間も

左手からお気に入りのえんぴつを 決して手放すことはなかった

娘が2歳になる頃には川崎へ引っ越し、私が周囲の環境や人に馴染めず鬱気味になり、病院を渡り歩いていた時期も

必ず「書くもの」を持参して、私の「病院巡り」に付き添っていた

私が診察してもらっている間、娘の相手をしてくれていた看護師さんたちが、娘の描く絵を心から褒めてくれている様子を見たとき、

心が酷く弱っていた私は

涙が出そうになるのを必死にこらえた



娘が小学校に上がった頃、私は仕事復帰して帰りが遅くなることが時々あった

仕事がなかなか終わらなかったある日、娘が暗闇の中ライトをつけない状態で自転車に乗って、自宅の周りをすごい勢いでひたすら走り回って

私のことを必死になって探している姿を見つけたとき

申し訳なさと切なさでいっぱいになり

娘の不安な気持ちに気づけなかった

残酷な自分が情けなくなった

本当はいっぱいいっぱい我慢しているはずなのに 

娘はよく

「ママ、おしごとがんばってね、おうえんだ!がんばれー!がんばれー!」

というメッセージとともに、ニコニコ顔のわたしの似顔絵を描いた紙を、差し出した

何枚もらったか 思い出せない

そして 

私が知らないところで娘は、高齢の大きな柴犬を飼っているご近所さんと、いつの間にか仲良くなったらしく

ある日その方が、我が家を訪ねてきた

「◯◯ちゃんが、うちの子(柴犬)の似顔絵をとっても上手に描いてくれてプレゼントしてくれたのが、すごく嬉しかったから」

と言って、お礼にとコーヒー豆とたくさんのお菓子を下さった

しばらくしてその高齢の柴犬は歩けなくなり、飼い主さんが抱っこしてお散歩しているのを時々見かけたけれど

ある日パタリと 姿を見なくなった


娘の描いた似顔絵が、少しでも飼い主さんの心の支えになってくれますように‥と 願った 

そして

中学高校と進み、やはり美術部に入った娘は、大きな夢を想い描いて美大予備校に通い始めた

けれど、県下一有名な高校の美術科の生徒たちがたくさん集まって来ていた予備校だったので、作品を並べられる品評会の日が来るのをすごく嫌がり、いつの間にか自信をなくし、辞めたいと言い出した

私は、娘が描く心温まる優しい色合いの絵が好きだったので、

「人の心を優しく溶かす絵を描けるようになってくれたら、それでいい」

という考えだったけれど、その頃の娘には理解できず、美大は受験しないと頑なになり、大学受験を完全に放棄しようとした

が、私の説得により仕方なく私が勧めた美術関係ではない大学を受けた。しかしその頃、たまたまコロナの時期が重なり、結果的に娘には

自由に好きな絵を、心のままに描くことができる大量の時間が与えられた

この時期の娘は、本当に楽しそうだった

そして

そんなさなか、今度は実家の柴犬「ラッキー」が亡くなった

母が悲しみに暮れていた頃

娘は自宅で、ラッキーの似顔絵を描き

ある日母のもとへ届けに行った。

桜の季節に亡くなったので、ピンクの花びらの下で微笑むラッキーが描かれていた

生きていた頃、よく笑顔で私の側に寄ってきたラッキーそのものだったので、

絵というものは

「その瞬間」

を永遠に変える素晴らしいものだと改めて気づいた

その後なんとか大学を卒業した娘は、自由に絵を描き続けながら調理場でアルバイトをしていたけれど、急にバイトを辞めると言い出した


娘は叶えたい夢を、私と同じくらいの年齢の職場の方々に話していたらしく

辞める前日に、その中の一人の女性が

「新しい門出に」

と心からのお祝いの気持ちを込めて、私たち家族のためにと、たくさんの栗をのせて炊いてある、今まで見たこともない豪華な「お赤飯」をプレゼントして下さった

そして辞める当日、職場の方々が全くおしゃれに興味のない娘に、女子力を高めるグッズがいっぱい詰まった箱をプレゼントして下さった

箱の中には、一人一人の方からの心温まるメッセージカードも優しく添えられていた

いつも前向きでいようね

そして、箱の表面のメッセージも、ありがたかった。

娘は、気づいたらたくさんの方々に温かく支えられて生きてきたんだと思うと、感謝の気持ちでいっぱいになり自然と涙が溢れてきた

人は一人では生きていけないので、これからは、娘が逆に何でもいいので人に与えられるものを通して、人の心を支えられる人になってくれたらと切に願う

一歳の頃から描き続けてきた夢の続きを再び見ようと、自分の内側の光を信じ始めた娘は

とても穏やかで 優しい顔つきになった

それはすべて、アルバイト先で娘を支えて下さった

方々のおかげだと思う

与えられた場所で

「精一杯咲く勇気」と「仲間への愛」を

溢れる程いただいて

娘は今 溢れる程強くなった

もう、誰かと比較せず、誰に評価されなくても

自分の中に 自分でいられる

確固たる自信が育っているよ

アルバイト先で日々娘を支え、無償の愛を与え続け

て下さった方々には 頭が上がりません

「年齢は親子くらい離れてるけど、全員すごく仲良しだから楽しいよ。色々な調理法も教えてもらったよ。」 

と、いつも嬉しそうだった

真の意味での波動の高い方々に出会えて

いただいた愛をしっかり胸に刻みこんだ娘は

根底から変わった


ネガティブにすぐ陥りがちな娘に 

ありのまま優しく寄り添って 

娘の話に真剣に耳を傾け、励まして下さり

本当にありがとうございます


そして、私の心の支えだった娘の 


もう一つの目標は


一人暮らし

わたしのもとを卒業していく準備が

できてしまったみたい


人は真に、人に頼ることができたとき


「人間」としての自立を果たし


その恩返しをするため


飛び立つ勇気を胸に抱いたとき


溢れる程強く 優しくなれる














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