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2023年10月の記事一覧

御本拝読「いい子のあくび」高瀬隼子

読ませる文章力 

 言わずもがな、「おいしいごはんが食べられますように」で芥川賞を受賞された高瀬隼子さんである。実は、雑誌の掲載は本書収録の「いい子のあくび」が「おいしい~」よりも先らしく、そう言われると納得。「おいしい~」の方もエッジが効いているが、こちらはもっと毒の鮮度が良いというか、切れ味が更に鋭い。
 小説の感想としては間違っているのかもしれないが、まず、「文章力の高い人だなあ」と本当に

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御本拝読「環と周」「きのう何食べた?22巻」よしながふみ

この気持ちを何と

 同日に発売となった、よしながふみ先生の漫画2冊。もうもう、感想を全部描こうと思ったらきっとnote記事30本分くらいになってしまうから、どうしても言語化したいところだけをピックアップしていきます。

 ※以下、がんがんネタバレします。

 「環(たまき)と周(あまね)」は、あるテーマを軸にした読みきり短編集。よしなが先生のこの形の一冊は十年以上ぶり(「大奥」「何食べ」もかなり

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御本拝読「謎解きはビリヤニとともに」アジェイ・チョウドリー

交錯するすべて

 久しぶりに、みっちり詰まった謎解きミステリーを読んだ。ただでさえボリューミーなハヤカワミステリ文庫の、インドの書き手による大どんでん返しな大作だ。
 イギリスとインド、現在と過去、二つの殺人事件が交錯する形で話は進む。過去、といっても数か月前の話なのだが、一章ごとに話の時間軸が変わるので読みづらいかと思いきや、むしろ逆で、主人公の心情や言動に大きな変遷がある故にその方が読みやす

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御本拝読「ペンギンクラシックスのデザイン」

ペンギンの心意気

 英国の出版社・ペンギンブックスが手掛ける中でも、各国の古典や名作を中心にするシリーズが、ペンギンクラシックス。黒字にオレンジの細い帯、その中央に小さなかわいいペンギンのマーク、といえば、誰でもどこかで目にしているはずだ。
 このペンギンクラシックスの歴代の表紙、装丁を集めたのが本書である。本シリーズは主に何十年何百年と読み継がれる古典・名作がテーマになるので、同じ内容の本の装

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御本拝読「京都SFアンソロジー ここに浮かぶ景色」 井上彼方 編

SFは自由だ

 大阪・京都を中心に活動するKaguya Booksの編集によるSF作品集の、京都編である。作家は、新進気鋭からベテラン、生粋のSF作家から同性愛ノベル作家まで多種多様。念のため断っておくと、本書に寄稿されたものはどれも全て純度の高いSF作品であり、小学生やLGBTQ作品が苦手な方にもお勧めできる。京都、というテーマはあれど、発想や展開もそれぞれ独創的で、飽きることがない。
 本来

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御本拝読「いい絵だな」伊野孝行×南伸坊

絵にあるものは

 最近、書架の整理や新着案内を見ていて、「芸術・美術館指南書が増えたなあ」と感じます。観光スポットとして博物館や美術館が紹介されるのはいいと思うけど、「この美術館ではこれを見るべし!」「この絵はこういう意味がある!」みたいな指南は……必要なのか?描いた本人がそうしてほしいならともかく、基本的に絵を鑑賞したり愛でたりするのに、あまり解釈や正解なんて必要ないのでは。
 そういう私のも

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