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中野翔子(52歳)/貝塚線物語

中野翔子(52)

5月の朝は気持ちがいい。

日曜の朝は少し寝坊をする。

いつもは6時半に起きるが日曜は8時半に起きる。

2時間の贅沢

昨夜は久しぶりに高校時代の友人と三人で食事をした。

智子はなんと、おばあちゃんになったらしい。

美知は母親を自宅に招き、介護をしているらしい。

翔子はずっと独身。ここ10年はカード会社の電話対応を続けている。

最近はヨガを始めた。

美知の話を聞いて、まだ元気な両親もじきに考えなければいけない時がくるだろうと少し心配な気持ちになった。

その時、私はどうするのだろうかと

50も過ぎているが、何もわからない、何も決めていない。

兄は神奈川で家を建てたから、基本私が両親の世話をすることになるだろう。

一度、きちんと話をしておかなければいけないのか、それともなるようになるのか。

昨日のことを考えながら、翔子は身支度を整える
今日は太宰府のカフェで同僚の島本美雨とランチの約束をしている。

ピンクに近いテラコッタデニムに黒のTシャツとロングのジレを合わせた。

今日は夏日に近い気温になるらしい。

毎朝神社境内の掃除をしている自転車のおじさんとすれ違い、駅に向かう。

ほぼ待つことなくホームに電車が到着した。

休日はガラガラで、ゆっくり座ることができた。

スマホを取り出すとちょうど智子からLINEが来た。

すごいの見つけたよ!と。

送られてきたインスタのアカウントにアクセスして驚いた。

同じく高校時代、その虚言癖のために皆から距離を置かれていた敦子がキラキラした顔を演出し

「50代から美しく、シングルママのあたらしい人生」

という自己紹介文とともに年齢は少し上に見える「自分で稼ぐ系」の女性達と
高級ランチを囲んで微笑んでいる写真が並んでいた。

半分怖いもの見たさで投稿を一通り見た。

電車シートも向かいに
部活だろうか、大きなキーホルダーをバックにたくさんつけた女子高生が2人座った。

こそこそ楽しそうに会話をしている彼女達の背後の車窓の向こうには5月の澄んだ青空が広がっている。

翔子は、胸に一瞬沸いた何かモヤモヤしたものを

大きなため息で吐き出し

今日1日を、私は、私に素直に、大切に、生きようと思った。

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