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【小説】強盗に花束を 第5話【創作大賞2023応募作品】

第5話

『強盗です、奥に行っててください』

確かに僕は高木さんに言った。

でも今強盗を働いているこのプロたちのことではない。

目の前にいる少年強盗のことだ。

僕の話を聞いて、高木さんは警察に通報した。

その後でプロの強盗に占拠された。

なんて事だ。

「じゃあ、もう警察すぐそこまで来てるんですか?」僕が高木さんに尋ねた。サイレンとか聞こえてきたら田代支店長が殺されてしまう。

「分からないけど、犯人を刺激されたら困るからサイレンは鳴らさないでくださいとは言っておいた」高木さんが言った。

さすが高木さんだ。僕は少しだけ関心した。

勿論、この状況を見越した訳ではないだろう。

だけど結果として、それが今ギリギリ田代支店長の命を繋いでると言えた。

通報を受けた警察が集まっていても、少なくとも強盗団が外の様子を確認するまでは田代さんが殺される事はない。

とはいえ、時間の問題だ。

いつかはこの人たちは用事を終えて、お金を持ってでていく。

その時にもし、警察に囲まれているのが分かったら。

警察を見てパニックになって田代さんは殺されてしまうかもしれないし、というか僕たちだって殺されてしまうかもしれない。

なんとかしないとまずい。

「支店長、傲慢で嫌いだけど、私の所為で死なせてしまうのは正直申し訳ない」高木さんが言った。

僕も考える。

確かにそうだ。

それに、そういう理由なら僕にも責任がある。黙っていればいいものを、高木さんが通報する理由を与えてしまった。

だけど一体どうするんだ?

強盗団は全部で6人。

一人は奥で田代支店長と何かをしている。

おそらくは金庫を開けたりとかか。

4人は出入口付近にいる。

最後の1人である女性強盗は僕らの様子を見張っている。

全員銃を持っている。

どうすればいいんだ。

「分かった。じゃあ僕たちも支店長助けるために頑張りましょう」全然考えがまとまらないまま僕はそう言った。

「ええやん。ええやん。自分ら、めっちゃかっこいいで」おじさん強盗が言った。

「作戦は?」僕が尋ねた。

多分時間はそんなにない。

急いで行動しなければならない。

「この兄ちゃんと俺は武器を持ってる」おじさん強盗が言った。

「俺はバタフライナイフ。鞄の底にある」少年強盗がボストンバッグを持って言った。

「俺は包丁や」おじさん強盗がポンポンとお腹の辺りを叩く。おそらく包丁を忍ばしているのだろう。

そうか。

この人たちは一応銀行強盗しに来たんだもんな。

「でも相手は銃ですよ?」高木さんが言った。

「せやな。でも銃ってのは威力が凄い分、反動もごっつあるねん。結構技術がいるんや。至近距離やったら案外ナイフとか包丁の方が強いらしいで。ツレが言ってた」おじさん強盗が言った。

ほんとかな。

結構眉唾な知識だ。

「仮にそうだとして、あの女の人は倒せても、あの4人はどうするんですか。ナイフの間合いに入るまえに殺されますよ」出入口の前に立っている強盗団をこっそりと指して言った。

「あれさー」少年強盗が言った。

「偽物かもしれない」

「え?」高木さんが言った。

「俺、結構FPSゲームが好きで銃とか詳しいんだけど、あれさ、AK47っぽいんだけど、グリップの形が変なんだよね」少年強盗が言った。

………。

うーん。

ゲームの話かぁ。

そのゲームがちょっと現実の武器より変えてるかもしれないしな。

「でも、あの人が撃ってたのは本物の銃でしたよ?」高木さんが女性強盗の方を見ながら言った。

「俺もな、ちょっと思っててん」おじさん強盗が言った。

「確かにあのお姉ちゃんが撃ってたのは本物や。サプレッサー付きの小型ハンドガン、ってやつやな。女性でも扱えるように威力がちょっと低めの銃や。それでも殺傷能力は十分やから、気つけてな?一方であいつらが持ってるやつはアサルトライフルや。戦争に使うようなやつやな。ここは日本や。お姉ちゃんのちっちゃい銃とは訳が違うで?一丁何千万すると思う?それを5丁やで?」おじさん強盗が言った。

「でも、なんか強盗の闇取引みたいなんあるんじゃないですか?それに何回も強盗してるならお金もたくさんあると思います」僕が言った。

「確かにこいつらはプロで、何回も銀行襲ってる。せやけど、いくらプロでも限界はあるで。回数重ねるたびにどんどん危なくなっていくからな。下見とか計画とか含めてものすごい金かかってるやろ。そない儲かってないんちゃうかな」

「闇取引かて、そりゃあるやろうけど安くなるわけじゃないで。むしろそういう本当のプロほど、相手も選ぶし金もかかるもんなんや。ツレが言ってた」おじさん強盗が言う。この人の友人は何者なんだ?

「俺もな、実はチャカが欲しかったんやけど予算的に諦めたんや。銀行襲っても赤字やったらアホらしいやろ?」おじさん強盗は言った。

確かにそれは一理あるな。

素直にそう思った。

どんな事業でも低コストで最大限のリターンを得ようとする。

銀行強盗だって例外ではないかもしれない。

見えてるだけでも6人のメンバーがいる。

報酬も6等分。

そんなに大きな銀行でもないからそこそこの金額しか望めない。

利益を増やすために道具のコストを抑える。

偽物のライフルを持つ。

案外正しいかもしれない。

「せやからな、あの姉ちゃんだけ倒せばええねん。それで銃さえ奪えば制圧や」おじさん強盗が言った。

「俺とおっさん、同時に逆サイドから襲えば勝てるんじゃないかな。銃は一方向しか狙えないわけだし」少年強盗が小声で言う。

あれ。

ワンチャンあるんじゃないか?

「でもその後どうするんですか?」高木さんが尋ねた。

「……………。」

「……………。」

二人とも無言になった。

「考えてなかったんですか?」高木さんが呆れていった。

「いや」僕が言った。

「二人が勝てるなら、あの女性強盗を制圧できるなら」僕は緊張しながら言った。

「田代支店長を助けることができるかもしれません」

第6話に続く



第6話





第1話


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