見出し画像

『科学的な適職』(鈴木祐)がズバッと指摘。適職とは「あなたの幸福度が最大化される仕事」のこと(!!)しかし、読後の結論は…

 他人から見れば出世して成功しているように見えるかもしれないが、当人はここ2~3年、気分の晴れぬ日が増えている・・・。そんな「中年かくれ迷子」が、同世代の”新進気鋭のサイエンスライター”の適職本を読んでみた。

適職とは「幸福度が最大化される仕事」にまず目からうろこ!

 たしかにそうだ。結局のところ、毎日の出勤が憂鬱でなくむしろ楽しくて、毎日の仕事を通して生活の満足感が上がり、喜びを感じる場面が増え、悲しみや怒りなどのネガティブ感情を減らしてくれる・・・そんな仕事が幸せな仕事なのだ。別に世界を股に掛けなくても、記念碑的な仕事でなくても、地位を手にしなくても、自分を幸せにしてくれる仕事ができれば、それがいいに違いない。シンプルな話だ。
 会社員を20年以上やってきて、ありがたいことに幸福度が高い時期が相当多かったのであろう事、そしてそれが近年変わってきた事に気づかせてもらった(変わってきてしまったのが何に依るのかは不明のままだが、恵まれている状況が当たり前になってしまっていたかもしれない)。そして、報酬できちんと報いてほしいタイプだと自分のことを思っていたけれど、仕事の幸福は意外とそこではないのだということも明らかになってきた。

幸福度を左右するのは給与upより裁量権(!)

 年収600万円に到達すると、それ以上は、年収の増加に対する幸福度の増加が鈍くなる、とよく言われてきた。私個人は懐疑派で、それは金銭に対する意味づけ次第だと思うからだが、この「日本一の文献オタク」の情報網でも、「給料と仕事の満足度は「R=0.15」の相関係数しかない」ということである。
 また、すでによく知られたことだが、ストレスがありすぎてもなさ過ぎても身体によくない。つまり、適度なストレスが良い。本書によると健康だけでなく「仕事の満足度」にもやはり適度なストレスが良いそうで、ストレスの張りを自分でコントロール可能であるがゆえに、組織内で地位が高いほど幸福度が高い。(実感で言わせてもらえば、地位が上がったことで直面する大きなストレスというものもあるのだが、ストレス頻度としては地位の低いときのそれとは比べ物にならない。)
 一見、「地位」と「給与」はトレードオフの関係ではなくむしろセットなだから「地位」と「給与」の幸福比較なんて意味ないじゃない!と思ってしまいそうだが、そうではない。要は、私たちは転職のときに、何を確認しなければならないか、だ。給料を確認する人は多いのに、裁量権やその決まり方について詳細に確認する人は少ない。

しかしながら、視野狭窄はどの層の人間にも起きている

 オハイオ州立大学が一流企業で働くCEOやCOOが行った168件の「選択」の成功・失敗を調べた研究によると、意思決定の際、3つ以上の選択肢を吟味したビジネスパーソンは29%だけ。たいていは、「あれか、これか」の二択で物事を考えていたとのこと。なお、データによれば、二択だけで意思決定をした場合の失敗率は52%なのに対し、3つ以上の選択肢を用意した場合の失敗率は32%まで下がっている。
 要するに、仕事選びについても、あれかこれかの二択でなく、徹底的に多面的に、考え抜く必要があるのだ・・・。

すべては視野を広げることから

 先ほど見たCEOたちの選択のお粗末さだけではない。歴史上の偉業を成し遂げた人物でさえ、一つのことに意識をとらわれ、その後の人生を棒に振ることさえあるのだ。ライト兄弟は飛行機の生みの親として名高いが、後発の技術者がライト兄弟の飛行機を参考にした飛行機を次々発表したことに対し、特許侵害の裁判を起こし続ける人生になってしまったことは初めて知った。
 こうした視野狭窄が人類の習いであるならば、転職の際もあらかじめそれに対処する枠組みを、と著者が示してくれているのが、以下の7つの徳目である。これは仕事の満足度について調べた259のメタ分析などで明らかになったものであり、これらの要素を満たさない仕事は、どれだけ子供のころから夢見た職業だろうが、人からあこがれられる仕事だろうが、最終的な幸福度は上がらないという。

仕事の幸福度を決める「7つの徳目」

  1. 自由:その仕事に裁量権はあるか?

  2. 達成:前に進んでいる感覚は得られるか?

  3. 焦点:自分のモチベーションタイプに合っているか?

  4. 明確:なすべきことやビジョン、評価軸ははっきりしているか?

  5. 多様:作業の内容にバリエーションはあるか?

  6. 仲間:組織内に助けてくれる友人はいるか?

  7. 貢献:どれだけ世の中の役に立つか?

身も蓋もない私の結論

 多くの研究に基づいて書かれていることもあり、自分にとって新しい情報や目からうろこの視点・論点が非常に面白い本だった。もう転職する気がない人であっても、一読したら面白いと思うほどであり、ぜひおすすめしたい。ここにメモしきれないフレームワークや考え方もたくさんあったので、私自身、転職活動をする際には必ず再読したいと思っている。そのうえで、身も蓋もない私なりの結論を書かせていただく。(ここにたどり着かせてもらったことにも感謝したい。)
 本書はいわゆる適職論だが、最も首肯したのは、55ページあたりにちょっとだけ触れられた、お金による幸せとライフイベントによる幸福との比較研究の話である。
・仲が良いパートナーとの結婚から得られる幸福度の上昇率は、収入アップから得られる幸福より767%も大きい(年収が平均値から上位10%に上昇した場合との比較)
・健康レベルが「普通」から「ちょっと体調がいい」に改善しただけでも、その幸福度の上昇率は、年収が平均値から上位1%にまで上昇した場合と比較して、6531%も大きい!
 この研究結果をどう感じるだろうか?結婚していて、そこそこ大きい病気をしたことのある人なら、「そりゃそうだ!」「でしょうね!」と声を大にするだろう。
適職は幸せをくれる。しかしそれは、健康や最高の結婚相手がくれる幸せに比べたら、ほんのわずかなものだ。この適職本のおかげで、職にまつわる憂鬱が激減した。社内への不満だの転職可能性だの、そんなことをぐるぐると考えている暇があったら、配偶者を大事にし、一緒に楽しみ、笑い、身体を動かす方が圧倒的に幸せになれるのだから。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?