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メキシコの空港で起きた珍事件

今回は日本からメキシコに観光旅行にやってきた、女性二人に空港で起こった事件を紹介。(ちなみに今から20年前の話しになります)

メキシコで観光ガイドをやっていた筆者は、前日メキシコ市内観光を行い、メリダ、カンクンに向かう彼女たちを、ホテルでピックアップ。

ドライバーとともにベニート・ファレス国際空港に向かうと、お客さんのチェックインを手伝い、発券されたチケットを確認。

ゲートの入り口まで案内し、係員にチケットを見せ、中に入った彼女たちは突き当りまで進み、左右両サイドにあるエスカレーターに乗ってくれれば問題なく筆者の仕事は完了となる。

入口でチケットを見せた係員の数メートル背後には、また別の係員がおり、パスポート(身分証明書)の確認が求められることがある。これは人の流れが多ければ全員が受けるわけではなくので、念のためのチェックといったものと認識していた。

中に入った彼女たちを遠巻きにゲートの外から見ていると、係員に言われるままパスポートを提示している姿が見える。しかしそのままエスカレーターに向かうことなく、左サイドにある部屋に連れていかれてしまったのだ。

なにか不備でもあったのか?

10分ほど待ったが、一向に彼女たちが出てくる様子はない。不思議に思い、ゲートの入り口にいる係員に事情を説明すると、彼女たちが入っていった部屋に確認しに行ってくれた。

すると中からは女性係員が出てきた。どうやら彼ら彼女らは空港職員というより、セキュリティー担当の警備員のようだ。

「日本人の女性が2人部屋に入ったまま出てこないんですけど、何かあったんですか?」
「彼女たちのツーリストカードの期限が切れているの。あなたは友達?」
咄嗟だったので、はい、と答える。
「そう、だから罰金を払わなければならないんだけど、その説明を彼女たちにしているの。」
「期限が切れているって、彼女たちは一昨日メキシコに来たばかりですが・・・」
「でもツーリストカードには、滞在期間が1日になっているの。」

ツーリストカードはメキシコに入国する際、名前や滞在先を記入し提出するカードで、イミグレーションの係員が、空欄になっている滞在日数を記入して半分を切って渡される。
普通、空港では無作為に30日~90日と記入されるが、入国管理局にいけば最大180日まで延長できる。
しかし彼女たちの滞在日数には「1」と記載されていたのだ。
海外から来ていて一日の滞在日数なんてありえないから、入国審査をやった人間に問題があるのだが、そんなものに対して罰金を請求しようとしているわけだ。

「彼女たちはあまり言葉がわからないみたい。あなたが直接私のボスと話ができるようにするから、ちょっと待っていて」というと、セキュリティーの女性は部屋に向かっていった。

待っている間、とりあえず公衆電話から、ガイド仲間の先輩に相談してみることにした。(メキシコの携帯普及率が、まだそこまで高くなかった時代なので)

「そのケースは聞いたことがないなあ。」

長年ガイドをやっている人ですら、見聞きしたことがない事件に遭遇してしまったようだ。

と、そこに先ほどのセキュリティーの女性が戻ってきた。が、筆者が電話している姿をみて、顔色が変わった。

「どこに電話していたの?」
「日本大使館に事情を説明しました。」
「・・・」
これはチャンスかも、と、とりあえず、はったりをかます筆者。

「・・・これボスの電話番号だから、かけてみて」
そういって電話番号の書かれたメモを渡された。

「ツーリストカードは90日は無料のはずなのに、お金を払わなければいけないんですか?」
そう言われ、青ざめた表情の彼女は「ちょっと聞いてくるからボスに電話するのは待ってて!」
と、再び部屋に戻って行った。

彼女が消えた部屋の入り口を静観していると、数分後、日本人女性が2人出てきた。彼女たちは筆者の姿を確認すると表情が和らぎ、手を振ってくれ、そのまま係員に誘導されエスカレーターを登っていく。

どうやら問題は解決したようだ。

後日確認したところ、セキュリティーの部屋でお金を払うよう言われたが、しばらくすると何事もなかったかのように飛行機の搭乗ゲートまで案内され、解放されたのだという。

20年前ではあるが、当時ツーリストカードに「1日」と書かれる観光客はしばしば見られた。しかし到着日、翌日市内観光、3日目メリダ、カンクンに出発という日程のツアーが大半だったため、イミグレーションに申請に行くことは実質不可能だったことから、放置せざるを得なかったのだ。

しかしこの事件で「1日」と書かれることが、イミグレーションとセキュリティーの一部の人間がグルになって、金銭を要求するためのものだとはっきりと分かった。

気のせいか、この後「1日」と書かれたツーリストカードを見る機会はなかったように思う。

たまたま筆者が電話をしている姿を見られたため、お金を払わずに事件解決となったわけだが、経験上これが最も質の悪いメキシコの犯罪だったかもしれない。






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