『ブレーブ・サンズー小さな勇者ー』第17話
カナタは、コナタに短剣を向ける男に敵意を剥き出しにしながら、相変わらず男の腕をぎゅっと強く握りしめている。
タナは、カナタの実力を垣間見て驚かずにはいられなかった。
まだ子供なのに、マナをうまく使っている。本人は無意識なのだろうが……。
カナタは、瞬時に手にマナを纏わせて、常人離れした握力と腕力を生み出していた。カナタはマナを感じる事はできても、使い方を学んだわけではない。タナの予想通り、無意識に手にマナを纏わせていた。
だが、そのおかげで、男とカナタとでは体格差がかなりあるものの、男の短剣を間一髪のところで止めることが出来たのだ。
短剣を持つ男は思いもよらないところで自らの攻撃を止められ一瞬、身体をフリーズさせるが、即座に次の所作へと転じる。
「邪魔だ!」
男は右腕を振り上げ、カナタの小さな胴体を持ち上げると、ガラクタをゴミ箱に捨てるように荒々しくカナタを部屋の片隅へと投げ飛ばした。
カナタは、男に投げ飛ばされて、部屋の壁に勢いよくぶつかったが、衝突する前に、全身にマナを覆ってなんとかダメージを軽減させていた。
「痛たた」
彼は、床に倒れ込んだ上半身を起こし顔を上げると、男のいたベッドの方を見た。
男がいない……どこに行った。
カナタの視線の先に、先程の男の姿はない。どこかに消えてしまっていた。一瞬、カナタは男の姿を見失っていると、視界の外側、カナタの左側から、男のナイフのように鋭い殺意を感じ取る。
殺意の感じた方に視線をさっと向けた。男は持っていた短剣の切っ先をカナタの心臓目掛けて突き刺そうとしている。
やばい!?この状況では避けきれない。
カナタは、完全に男に不意をつかれてしまっていた。反応が遅れ、今から男の攻撃を回避するのは難しい。
その直後、カキンと、金属音が鳴り響く。
「大丈夫か?」
カナタは、思わず瞑ってしまっていた瞳を開けると、タナが大剣を使い男の短剣から身を守ってくれていた。
「はい、ありがとうございます」
カナタは、命を救ってくれたタナに感謝の言葉を述べる。
この人、誰だろう。命を助けてくれたし、多分いい人なんだろうけど。
カナタにとっては、タナは見知らぬ相手だった。だが、初見でも彼女のもつ優しさや力強さのようなものを感じ、味方サイドの人間だと確信することができた。
「えっ!?……ここどこ。お兄ちゃん」
コナタもベッドから上半身を起こし目を擦りながらようやく目を覚ます。悪夢にうなされていた時のように、膨大なマナの放出はない。精神魔法による干渉を断ち切ったことで、マナの放出はうまく収まっていた。
「コナタ、早くベッドから下りて、こっちに来るんだ!」
カナタは、弟のコナタを心配して叫んだ。
「うん。分かったよ」
コナタは、起きたばかりに状況の整理がまだできていなかったが、カナタの言葉を信じベッドを下りると、カナタの方に近づく。
何だか、身体が重い。僕が寝ている間に何かあったのかな。
コナタは、カナタの方に近づく最中、自分の身体に違和感を感じていた。身体が重く、思ったように力が入らないのだ。そのため、危うく転びそうになったが、なんとか体勢を整えてカナタのもとにたどり着く。
「何が起こってるの?お兄ちゃん」
コナタに問われるも、カナタも今の状況を掴めずにいた。ただ、とても危険な状況であることは嫌なくらい分かった。
「分からない。でも、あの女の人がどうやら意識を失った俺たちを助けてくれたのだと思う」
「あの女の人が……」
コナタは、タナの方に目を向ける。タナは、短剣を持つ男がカナタたちに襲いかからないように依然相手をしてくれていた。
「お前たちは、逃げろ!家の外に出るんだ。そして、探せ!ユウを」
タナは、カナタたちに家の外に逃げてユウを探すように叫んだ。
ユウ、きっとどことなくお父さんに似てたあの人のことだ。
カナタは、タナのユウという言葉に、木の魔物を助けてくれた父親に似た男性の顔をふと思い出す。
「そうはさせるか。せっかく、見つけた解呪の子供、この場で始末させてもらう」
男は、短剣を握りしめ、どす黒い殺意をどっと漏らす。
「子供たちのもとには行かせない」
男が、カナタたちの方に向かおうとするが、タナはそれを大剣を使って防ぐ。
身の危険を感じたカナタは、タナが男と相手をしてくれている間に、コナタに言った。
「行こう、コナタ。今すぐ外に出よう」
カナタはコナタの右手を握り、外に連れて行こうとするが、コナタは立ち止まる。
「うん、でも、あの女の人一人にして大丈夫かな」
コナタは、一人男に立ち向かっているタナを心配でならなかった。
「私のことは構わなくて大丈夫だ!こんな奴には負けない。構わず逃げてくれ」
タナは、優しい表情を浮かべカナタたちにそう告げた。
「あなたの名前を教えてくれないか?」
カナタは、タナに名前を聞いた。自分を救ってくれた相手の名前だけでも知っておきたかったからだ。
「私の名前はタナだ」
タナは、カナタたちに名前を告げる。
「タナさん、ありがとう。また、会おう」
タナの名前を聞いたコナタは、タナに向かってそう言うと、彼女は微笑みを浮かべて一言答えた。
「ああ」
カナタたちは、彼女にこの場を託し、玄関の扉を開けて家の外へと出た。
家の外に出ると、やけに村の人々が騒がしく落ち着きがない。
一体、どうしたんだ。夜中だというのに。
日が沈む、漆黒に包まれた村は、いつもなら静寂に包まれているはずだが、今この瞬間は違った。人々は、悲鳴のような声を上げ、頭を抱えている人もいる。すべてが異常なのだ。
「お兄ちゃん、あれ……」
コナタがそう言って、何かを指差す。
「何だ、あれは。時計台か。時計台が崩壊している」
コナタの指差す方向を見たカナタは驚きの言葉が思わず出た。
イチノ村のシンボルである時計台が煙を出し、激しい音を立てながら崩壊している。時計台には、村の結界を司る解呪の巨石が安置されていた。その時計台が何者かに、攻撃され破壊されたということは、解呪の巨石も無事ではすまないだろう。
そして、その不安はすぐさま現実のものとなる。村の周囲にある結界にひびが入ったかと思うと、パリンとガラスが砕け散るかの如く粉々になって消滅する。
結界が散りゆく光景を目にした村人の一人は血相を変えて、高々に叫び声を上げた。
「う、うぁあああああああ!!!うううう……ああああ!!!結界が……結界が破られた!終わりだ。この村は終わりだ!魔物たちが村に侵入してくる」
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