『ブレーブ・サンズー小さな勇者ー』第10話

 いつの間にか、激しく降っていた雨はピタッと止み、黒雲に覆われた大空は次第に晴れていく。雲の切れ間からは、温かな日の光が差し込み、広大な平原を仄かに照らしている。

「お前たちは、何者なんだ?」

 ユウは、傷だらけになっているカナタたちを見て心配した様子で尋ねた。

「俺は、カナタ。あそこにいるのが弟のコナタだよ。ここでない世界から来たんだ」

 カナタは、地面に横になっているコナタを指さして言った。

「カナタ……コナタ……どこかで聞いたことがあるような」

 ユウは、二人の名前を聞いて、一瞬、頭の奥底に眠る記憶をふと思い出しそうになり、右手を額にやる。顔に靄がかかっているが、二人の子供と一緒に川や公園で遊んだりしている光景が何故か彼の頭にチラついた。

 この世界ではない場所での出来事。とても昔に見たと思われる記憶の断片に、ユウはなんとも言えない戸惑いを感じる。

 なんだ……この記憶は。知らない世界の知らない子供との記憶だ。

「弟は意識を失っているんだ。このままだと、命が危ないかもしれない。近くに怪我を治してくれるところがあれば、教えてほしい」

 だに意識が戻らず地面に倒れ込むコナタの姿を見ると、カナタは真剣な表情で訴えかけるように言った。

 ユウは、カナタの声にハッと我に返る。

「あ……ああ、イチノ村という村が近くにある。ここから、西北に30分程歩いたところだ。その村なら医療施設があるはずだぜ」

 ユウは、西北の方を見据えて指差す。カナタは、ユウの指差す方向にさっと顔を向けた。草原の向こう側に、今にも天を突き破りそうな巨大な白い山々が誇らしげに連なっているのが見える。

「ここから西北に30分で行けるのか。一刻も早く弟を医療施設に連れて行かないと……」

 カナタはそう言って、立ち上がってコナタのところまで行こうとする。

「おい、そんな傷で弟と村まで行く気か!?」

 ユウは、意地でも弟を救い出そうとする彼方の様子に驚きの声を上げる。

 やばい、視界が暗くなっていく……力が抜けて……。
 
 カナタは、魔物との戦いに限界まで身体を酷使していた。魔物の強烈な一撃も食らっており、傷も酷い。本来ならすでに意識を失っていてもおかしくない状態だったがなんとか強靭な意志で今まで意識を保っていた。

 だが、ついにカナタは意識を失ってしまう。力が抜け、地面にバタッと倒れ込んだ。雲の切れ間から差し込む光がそんな彼を優しく照らす。

「おい、大丈夫か、おい!?」

「……」

 ユウが話しかけるが、カナタの返事がない。目を閉じ、動かない。

 どうしようか。この二人。ボロボロになったこいつらをこのままにしておく訳には行かないからな。イチノ村まで、俺が運んでいくか。村の連中には死ぬほど嫌われているが、仕方ない。

 ユウは、はぁーととため息をつき、カナタとコナタの二人を肩に乗せると、西北にあるイチノ村へと急いで向かった。

 お父さん……。

 カナタは、ユウに運ばれている途中、若干、意識を取り戻していた。ユウの背中の温もりに、かつて、父親セナにおんぶしてもらった時の背中の温もりを感じた。カナタは、懐かしさを感じ、安心したように再び眠りについた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?