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『咲く花に寄す ~春は遠き夢の果てに~』

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かつて『梅の里』として知られた逢谷(おおたに)の町。酒蔵の楽隠居である健造は、“うめかんのんさま”を探しに来た少女、美佳と出逢う。「なんでも願いを叶えてくれる」という“梅観音”と…
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『咲く花に寄す』 スタートします

『咲く花に寄す』スタート致します。 (※ タイトルは「仮題」で、変更するかも知れませぬ) …

『咲く花に寄す』 その1

     1                冬枯れの畦道を踏み締めて、のどかというには寂…

『咲く花に寄す』 その2

    2 「いやいや……。それにしても、とんだ冒険者やな」  思わずひとりごちると、駄…

『咲く花に寄す』 その3

     3  窓から眺める雲は、なんであんなに心地よさそうなんだろうと思う。  空を見…

『咲く花に寄す』 その4

     4  校庭で縄跳びをする女子のグループに合流するみやこと別れて、下駄箱で靴を履…

『咲く花に寄す』 その5

     5 「いやあ、分かりませんなあ……」  退色した藍色の作務衣の上に丹前を重ねた…

『咲く花に寄す』 その6

     6  その後の行程は、幼児を歩かせるには負担が大きすぎるため、家の酒屋から配達用のバンを調達した。  それぞれ別地区にある、西海寺と深興寺を訪ねてみたが、やはり梅観音に相当する仏さまも、それを想わせる伝承すらも、心当たりはないと言うことだった。  深興寺は一ノ瀬家の菩提寺であり、頻繁に訪れているはずなのに、本堂の他に、諸仏を収めた小さな仏堂があることを初めて意識した。  明治の廃仏毀釈の際に、もともと近くのいくつかの神社で祀られていた仏像を、こちらに移したものらし

『咲く花に寄す』 その7

     6 承前  歩いて数分の山城逢谷駅に到着し、無言のまま並んで歩いていたみかの母…

『咲く花に寄す』 その8

     7  翌日、まずは美佳を伴って、祖母が入院している総合病院を訪れた。  ちょう…

『咲く花に寄す』 その9

     7 承前 「そや……ちょっとこれ、見てもらえませんか」  内ポケットに収めてい…

『咲く花に寄す』 その10

    8  ざらつく地面に押しつけた頬がヒリヒリと痛む。凍てついた大地は、地面に投げ出…

『咲く花に寄す』 その11

     8 承前  はっと覚醒して、息を吸い込む。自分がどこに居て、どういう状況に在る…

『咲く花に寄す』 その12

     9  荷田みやこは一ノ瀬健吾のことが好きだったが、それを誰にも言ったことはなか…

『咲く花に寄す』 その13

     9 承前  考えることが一杯で、帰り道は頭の中がぐるぐるしていた。グループ発表のレポートをまとめなきゃいけないこと、美佳ちゃんが可愛かったこと、けんちゃんの写真を早く現像したいこと、そしてお地蔵さまのこと……  家にあるのが当たり前で、とくに話を聞いたことはなかったけれど、おじいさんがいつも自分でお地蔵さまのお世話をしていることは、みやこも知っている。とっても優しい顔をしたお地蔵さま。小さい頃はそのお顔をぼんやり眺めているのが好きで、悲しいことがあるといつもごろん