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春は遠き夢の果てに

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かつて存在したという、夢のように美しい梅林を求めて、美佳はその町を訪れる…。 花々に彩られた京都を舞台に織りなされる、不器用で優しい人々の物語。
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2020年2月の記事一覧

『春は遠き夢の果てに』第三部 ~秋月夜~

第二部までこちらで公開しておりました『春は遠き夢の果てに』、最終章の『秋月夜』篇をアップ…

秋月夜 (一)

   第三部 秋月夜      一  鮮やかなコバルトブルーの蒼穹が広がっている。樹々の…

秋月夜(二)

     一(承前)  心が決まってからは早かった。  まず、家の相続権を持つ、冨男伯父…

秋月夜(三)

     二 「ちょっ、ちょっと待って下さい! いきなりそんな事言われても……」 「うち…

秋月夜(四)

     二(承前)  簡単な昼食の後片付けを終えて、上がり框(かまち)から中央に囲炉裏…

秋月夜(五)

     三  縁側に腰掛けて、庭をぼんやり眺めている。  ここの所色々あったせいか、す…

秋月夜(六)

     三(承前) 「いやあ、めっちゃええとこですやん! こら流行りますよ!」開口一番、周囲を見渡しながら、信吾はそう言う。 「でしょ? めちゃ良いとこなの。場所、すぐ分かりました?」 「はい、ちょっと高台なんですぐに。おお、兄きも居てたんかいな。久し振り」 「おお」健吾は、ちょっと顔を上げて見せただけで、そのまま作業を続ける。外では愛想が良いのに、照れがあるのか身内にはつっけんどんなのが面白い。 「助かってるのよ〜、お兄さん居てくれて。畑と庭の手入れから、家の補修や優希

秋月夜(七)

     四  家に帰ると、座敷わらしが座っていた。 「ひっ」と叫ぶと一旦外に出て、壁に…

秋月夜(八)

     四(承前) 「お、お客さんか」裏口から入ってきた健吾が、いつものように「ええと…

秋月夜(九)

     五  エンジ色のスズキに幼児たちを乗せて、山道を走っている。  引っ越しに合わ…

秋月夜(10)

     五(承前) 「そうかあ、一人で行ってしもたんやね……」  伊都子と名乗ったふく…

秋月夜(11)

     六  この家で暮らしていると、時折、静枝を訪ねての来客がある。関係の深い浅いに…

秋月夜(12)

     六(承前)  仏前に向かって端座し、その男性は、かなり長い間手を合わせ、瞑目し…

秋月夜(13)

     七  そのままベランダはアキラに任せる次第になり、完成するまでしばらくの間、母屋の方に滞在してもらうことになった。  ちょっとした事情でしばらく大工業は休止していたのだが、一念発起してまた小さい工務店を始めることになっている。肩慣らしにはちょうど良いからぜひやらせて欲しいと、アキラは笑顔を見せた。  彼はまず、道具の手入れから始めた。裏の物置に置きっ放しになっていた祖父の工具を見てもらうと、「うん、良い道具だ」と一言つぶやき、そのままほとんど丸半日かけて、工具の一