見出し画像

始皇帝陵の発掘調査って兵馬俑以外でもガンガン進んでるんですね!?【読書メモ】

日本の古墳の本以外の考古学本も読みたいな…せや、中国の遺跡本読んでみよ!と意気揚々とページを開き、タイトル通りの叫びを上げました。
皆さんご存じでしたか!? すみません、私は知らなかったよ!



書誌情報

『始皇帝の地下宮殿 隠された埋蔵品の真相』
著者:鶴間和幸   出版社 ‏ : ‎ 山川出版社
発売日 ‏ : ‎ 2021/9    ソフトカバー‏ B6変 208ページ
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4-634-15188-8


「始皇帝」

始皇帝。
初めての皇帝。ザ・ファースト・エンペラー。
天帝と王しかいなかった中国で、「初めて国土を統一したんだから王より偉くなっても良いよね」と皇帝なる言葉を生み出した人物。
(本名はおそらく趙政さん)

「始皇帝」の名はたぶん、永遠に語り継がれるんでしょう。
中国統一、度量衡、焚書坑儒、不老不死の探求、万里の長城……多くの文物が彼を起点に生み出され、現代にまで伝わっています。
本書はその最後のひとつ、始皇帝陵にまつわる最新の考古学的研究成果を基に、未だ多くの謎に包まれる始皇帝の地下墳墓に光を当てるといった内容です。


始皇帝陵、兵馬俑その他

紀元前210年に崩御した始皇帝は『史記』の記述によると、陝西省西安北東の驪山に大規模地下宮殿を作り、数多の財宝とともに葬られたそうで、その地下宮殿には水銀で作った河川や海があるとも。

長らく伝説となっていた始皇帝陵は、1974年に驪山の麓で兵馬俑坑が発見されたことで現実味を帯び、その後の調査で驪山の地下に確かに始皇帝を葬った大規模な施設が存在することが判明。驪山の一画は始皇帝陵として世界遺産に登録された……ところまでは知ってました。

秦始皇帝陵博物院のマップ(を撮影したもの)
http://eattokyo.cocolog-nifty.com/blog/2019/11/post-39f11a.html

へー、下の濃い緑が始皇帝の地下宮殿があるエリア…
兵馬俑坑はかなり離れた別区画にあって、一号坑・二号坑を見物出来る…
陵園中心区では副葬坑も発掘・整備が進められている…

めちゃくちゃ発掘進んでるじゃないですか!?

知らなかった…いまこんななんだ…
読みながらビビり散らかしてました。

兵馬俑坑は始皇帝陵の端に位置しているので、皇帝の近くに仕えるものではなくて、境界の守護的な役割があるそうで。
(一番の宝物じゃなくてあのクオリティ…恐ろしい…)
始皇帝陵の中心、地下宮殿に近い坑もすでに複数発掘されているとか。壮大な始皇帝陵園の実像が徐々に明らかになってきてるんですね


青銅の戦車と馬(ほぼ原寸大)
CC BY 1.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=1050940

こんなのも展示されてる。かっこいい。

ところで。これだけのビッグネームなのに始皇帝陵の情報がネットにあまりないのは何でだろう(噂のグレートファイアウォールの力か…?)
書籍も少ないし、始皇帝陵の発掘状況は調べにくいですね。その意味でも貴重な本かも。


始皇帝の地下宮殿を想像する。

遺跡の発掘は、悪い言い方をすれば遺跡の破壊に他なりません。
さらに始皇帝の地下宮殿では近年『史記』に語られる水銀の河の実在を示唆する観測データが得られており、発掘となると猛毒汚染エリアを突き進むことになるわけで。
超貴重な宝物が集められているであろう始皇帝の墓室ですが、当面の間は発掘の発掘の予定がないそうです。仕方ないですね。

とはいえ、好奇心旺盛な考古学者の皆さんは別方面からのアプローチで始皇帝の地下宮殿を探ろうとしています。

方法1:非破壊観測の活用

最近は破壊しなくても内部を観測・推測できる手法が出てきているそうで、考古学でも様々な試みがなされていますね。
始皇帝陵でも、衛星画像・超音波測定・赤外線測定・地質測定など様々な手法が試みられ、なんと素粒子ミューオンを用いた透過観測も始まっているようです。
本書では、東海大学が主に参加している衛星画像情報・GPS測位から始皇帝陵園内の構造全体を捉えなおす試みが詳しく紹介されています。

墓室の向きや地中の深さなど分かることも多いようで、調査の進展に期待ですね。


方法2:同時代の古墳を参考にする

始皇帝は秦人なんだから、秦の墳墓を参考にすればいいじゃない。
というわけで、秦の墳墓の構造と出土物を検証し、そこから始皇帝陵内部を想像するアプローチが紹介されています。
秦人のお墓は数多く見つかっており、始皇帝の先祖のお墓も知られているのですが、本書で特に注目されていたのは湖北省睡虎地にある『睡虎地秦墓群』でした。

睡虎地秦墓群は12基の墳墓から成りますが、そのうちのひとつ、秦の官吏だった喜さんのお墓から竹簡1150点余りが出土し、秦時代の法律や地方役人の暮らしぶりが詳細に分かるということで非常に参考になるのだそうです。
しかし棺に竹簡1150点って…ギチギチですね!

始皇帝陵からは今のところ竹簡木簡の出土はほぼゼロ。
竹簡の重さを測って仕事量を管理していた始皇帝が墓所に竹簡を持ち込まない筈はないので、始皇帝の亡骸を囲むようにして納められている可能性が高いそうです。
貴重な文書を収集していたと言われている始皇帝。一体何が眠っているのか、ますます気になります。

さて、本書ではもうひとつ、始皇帝陵を考えるうえで参照すべき古墳が挙げられています。

『馬王堆漢墓』は始皇帝から約100年後、前漢初期に長沙国の相と初代軑侯を務めた政治家・利蒼と妻の辛追、息子の利豨が眠る有力者のお墓。特に辛追の亡骸はほぼ生前そのままの状態で保たれていたこともあり、中国考古学史上の一大発見と言われています。

始皇帝時代からはやや離れていますが、有力者の墓の構造や副葬品など、参考になる点が多いそうで、あれこれと比較検討されていました。
なお、始皇帝の墓室は馬王堆漢墓と似た環境下で保存されている可能性があり、もしかすると生前に近い姿のままの始皇帝が今でも眠っているのかもしれないそうで。
非常にドキドキしますね。


ちょっと改善してほしい点

基本的にこの本、貴重な情報が詰め込まれてるし、手に取りやすい価格で大変ありがたい本なんですが、ちょっとだけ言わせてほしい。

図が小さい。

誤字脱字がいっぱいある。

歴史書籍に定評のある山川出版さんなのに…!

図が小さいのは特に悩ましかったです。
本文で述べている文物を説明するための図が掲載されているのは助かるのですが、文章のどこがどの図と対応するか分かりにくいので初心者は割と混乱します。
あと、図に小さく描き込まれている地名とかNo.が読めない! ○○号墓とか△△坑とか、ただでさえ中国漢字だったりするのに、どれか分からない…! 難易度高めでした。

誤字脱字はそこまで致命的ではないんですが、「ここ改行要るんじゃない?」とか「ここ文字表記ブレてない?」など地味にストレス。もう少し推敲してあればパーフェクトなのに…!


結局

小さな不満点はありつつも、とかく日本語情報の少ない始皇帝陵について最新の知見が得られる貴重な本です。
歴史小説漫画ゲームファンも考古学ファンも知的好奇心を刺激される楽しい一冊ですよ。
貴方も思いを馳せよう、始皇帝の地下ピラミッド。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?