見出し画像

春夏秋冬の花々が織りなす日本画の世界【山種美術館 花flower華2024】

JR恵比寿駅から広尾中学校のある丘を登っていくと、優美な日本画コレクションで知られる山種美術館が見えてきます。
現在、四季の花をテーマにした所蔵作品展『花・flower・華 2024』開催中(5/6まで)。日本画でお花見を楽しみたい方必見です。


奥村土牛 『醍醐』 これだけ撮影可。

メインビジュアルになっているのは奥村土牛による京都・醍醐寺の桜を描いた一枚『醍醐』。
豊臣秀吉の醍醐の花見で有名なこの桜の花びらを大胆にデフォルメし、薄桃色の重ね塗りを繰り返すことで、花を見た時の印象を幻想的に表現しているようです。遠目に見ると望洋としていますが、前に立ってじっくり鑑賞すると細部まで手の込んだ作品でした。


四季の花々

展示は春夏秋冬の花を順々に取り上げる構成になっています。
まず春の花々のセクション。桜をモチーフにした作品が多いものの、各人の創意工夫を凝らした作品が並びます。小林古径の輪郭がくっきりとした花、稗田一穂の夜桜の美しくも怪しい風情、同じ夜桜でも千住博の用いた現代的なドット表現の面白さなど、それぞれの個性が光ります。

桜というありふれたテーマだからこそ、各人の取り組みの違いが顕著で面白いですね。

夏の部では、福田平八郎の『牡丹』屏風が圧巻。繊細に描かれた牡丹が無数に咲き重なる幻想的な光景は、この世ならぬ雰囲気をまとっています。

牡丹といえば、速水御舟が墨で描いた牡丹の花『牡丹花(墨牡丹)』が独特で面白かったです。濃淡だけで花びらのぽってりした質感を表現した優品でした。

大きい作品だと、川端龍子の六曲一双屏風『八ツ橋』。尾形光琳のカキツバタ屏風にインスパイアされたのが明白ですが、より写実的に花を描くことで全く違った雰囲気を醸し出しています。


速水御舟 『紅梅・白梅』 山種美術館収蔵

秋のコーナーでは、木村武山氏(初めて知った)の作品『秋色』が良かった。鈴木其一を彷彿とさせる淡い色使いの植物画で秋の美しさを表現していました。
冬の花々のコーナーでは、速水御舟の『紅梅・白梅』がモダンな構図で好みでした。三日月の位置が絶妙でハイセンスですね。


梅原龍三郎 『薔薇と蜜柑』 山種美術館収蔵

本展は日本画がメインですが、洋画も少数出展されています。森田沙伊『薔薇』は、べったりとした花弁の質感と肉厚な雰囲気が強調されて、肉感的な薔薇の生け花の世界を独特に描いていました。ちょっと珍しい雰囲気の絵なのでぜひ現地でご覧ください。
梅原龍三郎はマティスに似た濃い色使いで。暑苦しいほどのオーラを放つ『向日葵』とヴィヴィッドな『薔薇と蜜柑』が迫力満点で良かったです。


目玉作品

さて本展最大の目玉作品、その一つは田能村直入の『百花』

田能村直入 『百花』部分 山種美術館HPより
https://www.yamatane-museum.jp/exh/2024/flower2024.html

明治二年に描かれたこの絵巻物は、100種類以上の花が精密に描かれ、芸術品としても植物画としても価値の高い作品。四季折々の花を重ね詰め込んだ画面は豪華絢爛、色彩も美しく、日本植物画の極致のひとつに違いありません。
実物は写真よりも遥かに美しいので、機会があれば一度は現物をご覧ください。


荒木十畝 『四季花鳥』 山種美術館収蔵

もう一つの目玉作品は荒木十畝の『四季花鳥』。十畝は幕末~明治の画家・荒木寛畝の養子で、兄弟弟子に池上秀畝が居ます。つい先日、秀畝の『四季花鳥』を観て来たばかりなので巡り合わせに驚きました。
十畝と秀畝、どちらも大判サイズで四季の花鳥を描いているのは共通していますが、写生の鬼と言われた秀畝の緻密さと比べると、十畝は細部を柔らかくデフォルメしており、すっきりした印象。色合いも秀畝の鮮やかな緑青に対し、パステルカラーに近い色調が目に優しく、癒し系です。
どちらも素晴らしい花鳥画なので、いつか二人を取り上げた展覧会に行ってみたいところ。


まとめ

山種美術館『花・flower・華 2024』展は日本画の魅力を存分に味わえる華やかな展覧会でした。著名な画家たちが描いた花々の競演が圧巻。
また、美術館1Fのカフェでコラボ和菓子が楽しめるのですが、見た目も味も「美」です。こちらもぜひどうぞ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?