江戸中期の妖怪マニア 鳥山石燕の代表作さくっと閲覧【書籍レビュー】
蜃気楼、見たことがありますか?
私が見たのは水平線に広がる銀色の板みたいなのでしたが、楼閣が立ち並ぶ都市の姿が見えることもあるそうです。ふしぎ。
サムネ画像は昔の人が考えた妖怪『蜃』。古代中国人は、蜃が吐く気が幻の建物(楼閣)を作ると考え、この現象を蜃気楼と呼ぶようになったそう。なお蜃は当初竜の一種でしたが、いつの間にか巨大ハマグリと混同され、そのうちハマグリ説が優勢になっていったようです。
この絵を描いたのは江戸時代中期の画家・鳥山石燕。狩野派の画家のひとりですが、妖怪マニアの本領を発揮して出版した『画図百鬼夜行』のヒットにより、今では妖怪画の中興の祖として崇拝されています。
現代では妖怪画家 = 水木しげるのイメージがありますが、その水木も愛して参考にした鳥山石燕。彼が名づけ、生み出した妖怪も多く、現代の妖怪は彼の存在なしには語れません。
↓の記事にも書きましたが、今年の夏は百鬼夜行関連の本を読んでまして、その一環で鳥山石燕の作品もじっくり眺めることにしました。なんと石燕妖怪画は文庫本でほぼすべて読め(見れ)ます。パブリックドメインとはいえ素晴らしい時代ですね。
書誌情報
内容について
鳥山石燕による妖怪画の集大成とも言える四作品『画図百鬼夜行』『今昔画図続百鬼』『今昔百鬼拾遺』『百器徒然袋』を一冊にまとめた文庫本。
中身はグレースケール印刷ですかね。文庫サイズなので細部の鑑賞には向かないかもしれませんが、お手頃価格750円で鳥山石燕妖怪画の全容を俯瞰できるのは非常に助かります。前に国書刊行会から出た大判画集は5000円超えてましたし!
本書を開くと、一ページ一枚の妖怪画がずらり。多くの絵には石燕による一言コメントも書き込まれており、その内容はページ下部に文章化されています。もっとも、現代語訳は付いていないので意味が分からない文もあります(笑)
最初の巻の目次を見てみましょう。
木魅、天狗、幽谷響、…。
馴染みのある妖怪の名前が続きます。でも、木魂と書かずに木魅、山彦でなく幽谷響と表記するあたり、詩的で素晴らしいですね。昔の人の漢字当てセンスには脱帽します。
はじめのうちはよく知られた妖怪たちが続きますが、次第に見たことも聞いたこともない奇妙な名が登場。
貝児、文車妖妃、不落不落、…。
いずれもWikipedia記事は作られていますが、解説を読むと出典:鳥山石燕となっており、石燕の創作説が濃厚だとか。この本に登場する妖怪のじつに三分の一は創作と言われています。Wikipediaにはカテゴリーまでありますね。
水木しげるが愛読したのは間違いありませんが、他にも多くの作家が画図百鬼夜行を参考に用いているようです。
例えば、名作漫画『うしおととら』で終盤重要な役を担う鏡の妖怪・雲外鏡も石燕の創作と考えられています。また、京極夏彦の京極堂シリーズ(百鬼夜行シリーズ)のタイトルは画図百鬼夜行に登場する妖怪にちなんでおり、ここから着想を得たと言われています。『魍魎の匣』とか『塗仏の宴』とかね。
さて実際の絵ですが、印刷冊子用の浮世絵なので、百鬼夜行絵巻のようなカラフルなものではありません。さらりとした線で描かれており、描き込みの細かい鳥獣戯画のような雰囲気。一見シンプルですが、よく見ると細部まで江戸センスの漂う瀟洒な画風です。
こんな感じで二百点以上の妖怪画が淡々と続きます。
表現も興味深く、伝説通りの姿を描いたものもあれば、ほぼ創作じゃないかと思うものもあり、他の妖怪図典の内容と比較するとなかなか楽しい。
まとめ
コンパクトながら江戸中期の妖怪集大成画集として、ぜひ手元に置いておきたい一冊。日本の妖怪文化に興味のある方、妖怪をモチーフにした創作をしている方には資料としてとてもおすすめ。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?