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天地人が注目する今月の宇宙ニュース~ リモートセンシング 編~Vol.15

天地人は、衛星データを使った土地評価コンサルを行っているJAXA認定ベンチャーです。地球観測衛星の広域かつ高分解能なリモートセンシングデータ(気象情報・地形情報等)や農業分野の様々なデータを活用した、土地評価サービス「天地人コンパス」を提供しています。

Tenchijin Tech Blogでは、宇宙に関連するさまざまな最新情報を、天地人のエンジニア、研究者、ビジネスリーダーが一歩踏み込んで解説します。

天地人が注目した4つの海外ニュースを紹介します。
今回は、
・世界で最も気温上昇が深刻な場所、スヴァールバル諸島
・レーザーによりデータを10倍速く送信可能な中国の衛星
・霧雨を検出する新たなレーダー観測方法
・様々な分野のセンシング技術を紹介するMITのシンポジウム
について取り上げます。

それぞれについて、天地人の専門家が、ニュースの注目ポイントや今後の動向を解説します。


1.天地人が注目したニュース4選!

ニュース1:世界で最も気温上昇が深刻な場所、スヴァールバル諸島

ヨーロッパは他の大陸の2倍の速さで温暖化しているが、ノルウェーの国連協会によると世界で最も気温が上昇している場所は、ノルウェーのスヴァールバル諸島である。海氷と外洋の境界に位置するが、温暖化により氷が北や東に後退し、氷から出てしまった。1997年から2022年の間にヨーロッパの氷河は約880㎦の氷を失った。また、グリーンランド氷床の融解により、世界の平均海面は約14.9mm上昇したという。

出典:Europe is Warming Twice as Fast as Other Continents, Svalbard Most Exposed, HIGH NORTH NEWS, https://www.highnorthnews.com/en/europe-warming-twice-fast-other-continents-svalbard-most-exposed

ニュース2:中国の衛星、レーザーによりデータを10倍速く送信可能に

中国国有企業のChangguang Satellite Technology社は、商業衛星へのレーザーによる高速通信を導入し、宇宙から地上へのデータ転送速度を従来の10倍の毎秒10ギガバイト(Gbps)にすることに成功した。この進歩は、レーザーがデータ・キャリアとして機能し、従来のマイクロ波技術よりもはるかに広いスペクトルを提供することで可能になった。この最先端技術の導入は、衛星との地上通信に革命をもたらすと期待されている。

出典:China’s satellite transmits data 10x faster thanks to lasers, INTERESTING ENGINEERING, https://interestingengineering.com/innovation/chinas-satellite-transmits-data-10x-faster-thanks-to-lasers

ニュース3:霧雨を検出する新たなレーダー観測方法

霧雨を検出するためのレーダードップラースペクトル観測を用いた機械学習技術が新たに開発された。新手法により、従来のミリ波レーダーによる観測では、特に薄い雲における霧雨の発生を著しく過小評価しており、実際はより頻繁に霧雨が発生していることが示された。霧雨の発生は地球のエネルギーバランスにとって重要な役割を果たし、降水気候の解析に貢献する。この新手法により、グローバル気候モデルの改善に役立つ可能性がある。

出典:New Insights on the Prevalence of Drizzle in Marine Stratocumulus Clouds, news wise, https://www.newswise.com/doescience/new-insights-on-the-prevalence-of-drizzle-in-marine-stratocumulus-clouds/?article_id=795047

ニュース4:様々な分野のセンシング技術を紹介するMITのシンポジウム「Ambient Sensing」が開催

マサチューセッツ工科大学のnano Immersion Labは、今年5月にセンシング技術に関するシンポジウム「Ambient Sensing」を開催した。このイベントには様々な分野のMIT教員や研究者が参加し、氷河の氷の流れや変形を理解するための技術や機械学習と組み合わせた都市上空のオゾン汚染についての研究など、多様なセンシング技術について紹介された。多くの講演者が、アンビエント・センシングやデータ収集によって社会課題を解決するために、複数分野を結びつけることの重要性について語った。

出典:Sensing the world around us, MIT News, https://news.mit.edu/2023/sensing-world-around-us-0626

2.天地人はこう読む

以下では、本記事で紹介した4つのニュースがなぜ注目されているか、どんなトレンドが今後起こりそうかなど、天地人の専門家の見解を記します。

ニュース1は「技術的な視点から事業開発に従事する池上
ニュース2は「通信衛星の通信技術に精通するエンジニアである稲岡
ニュース3は「機械学習の専門家である佐々木
ニュース4は「通信衛星向けAIプロダクトの開発マネージャーである木村
の見解を記します。


ニュース1:世界で最も気温上昇が深刻な場所、スヴァールバル諸島

今年の夏は厳しい暑さとなりました。気象庁によると2023年6月下旬の平均最高気温は15都県で過去最高を更新したそうです。

この暑さは日本だけでなく、同じ時期に世界各地で異常な高温が記録されています。WMO (世界気象機関) によると、アメリカ南部、地中海沿岸域、北アフリカ、中東、中国などで最高気温を更新しているようです。

このように世界規模で報告される高温ですが、今回ご紹介する記事によると、ヨーロッパは他の大陸に比べて2倍の速さで温暖化が進行しており、その中でもスヴァールバルの気温は、夏に3℃弱、冬に9℃も平均気温よりも高く記録されたそうです。

スヴァールバルは世界で最も気温が上昇している場所であると記事では指摘されています。ここでは、なぜスヴァールバルは平均気温よりも著しく高く、夏よりも冬の方が気温が高いのか考えてみたいと思います。

スヴァールバルは、北極圏に位置するノルウェー領の諸島です。ノルウェー本土と北極点のおおよそ中間に位置し、世界で最も北に位置する居住地域の一つと言われます。
スヴァールバルが含まれる北極圏は、実は地球全体と比べて3倍から4倍の速さで温暖化が進行する地域です。北極圏が他の地域よりも温暖化が進行するプロセスは、雪氷アルベドフィードバックという現象によって説明されることがあります。

アルベドとは、地表面が太陽光をどれだけ反射するかを表す指標です。雪や氷のような明るい表面はアルベドが高く、多くの太陽光を反射します。
しかし、北極圏で気温が上昇すると、雪や氷が融けてアルベドが低い海面や陸地が露出します。アルベドが低いと地表面は太陽光をより多く吸収し、熱を蓄積し気温が上昇します。
これにより、さらに雪や氷が融ける(=アルベドが低い海面や陸地が露出し熱を蓄え温度上昇する)というフィードバックが働き、温暖化をさらに進行させます。

このような状況の上で、記事によるとスヴァールバルは海氷と海面の境界に位置すると指摘されています。
これまでであれば、北極圏のスヴァールバルの冬は海氷で覆われると考えられます。海氷は太陽光を反射し、海水からの熱放出を遮断する機能を果たします。
しかし、北極圏の温暖化が進行するにつれて、スヴァールバルの冬は海氷が減少し、海面が露出すると、海水の熱が大気に放出されるようになります。熱が大気を温め、冬の気温を上昇させた可能性があります。結果として平均気温よりも気温が上昇したと推測されます。

まとめると、スヴァールバルの平均気温が著しく高い理由として、地理的な位置と気候変動の複合的な影響が考えられます。北極圏に位置するスヴァールバルは、温暖化の影響を他の地域よりも強く受けている可能性があります。また、冬は海氷の減少により海水からの熱放出が増加し、これが平均気温の上昇を引き起こした可能性も考えられます。

さて、この解説では気候変動の影響が特に顕著に現れているスヴァールバルの事例をご紹介しました。私たち天地人は、宇宙ビッグデータを活用し、土地評価システムを通じたビジネスソリューションを提供します。特に気候変動というグローバルな課題に対する取り組みとして、現在気候と将来気候を考慮した農作物の栽培適地探索ソリューションを提供、実社会の課題解決し持続可能な社会に貢献することを目指しています。

(解説:事業開発 池上)


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