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本雑綱目 22 種村季弘 怪物の解剖学

 これは乱数メーカーを用いて手元にある約4000冊の本から1冊を選んで読んでみる、ついでに小説に使えるかとか考えてみようという雑な企画です。

今回は種村季弘著『怪物の解剖学』です。
河出文庫からも出てるけど、青土社版の‎ ASIN:‎B000J95VRE。
NDC分類では文学>評論. エッセイ. 随筆に分類しています。
1974年出版で少し古い。

1.読前印象
 NDCが社会風俗(民俗学とかではなく)ではなく評論・エッセイに分類してるということは、学術系の論文じゃなくてライトな仕上がりっていうことなのかなと思う(なお、僕は分類できないのでNDCは存在する限り国会図書館に寄せている)。
 この著者はだまし絵とかの本を書いていたから、幽霊見たら枯れ尾花とか、ライティングとかそういった方面で怪物でないものが怪物に見えていた、という趣旨の本だろうか?
 はりきって開いてみよう~。

2.目次と前書きチェック
 『ゴーレムの秘密』『怪物の作り方』『魔術師シモン』『壜のなかの精霊』『少女人形フランシーヌ』『始原児の再生』『自動人形庭園』『マンドラゴラの旅』『機械人間の系譜』『ピュグマリオンの故意』『ドッペルゲンゲルの彷徨』『鉱物の花嫁』と続いていて、なんだか一昔前のサブカル黒魔術の本みたいだ。
 えっとー。この大きな章にはページがふられているけれど細目はふられていないので、多分1つの章の中から抜き出すスタイルは使えそうにない。そのためどれかの章を選ぶべきなんだろうけどえっとー。
 小見出しを読んでみるとこれは騙し絵的なものではなくて、それぞれの怪物の物語がどのように出来上がったか(非物理)という来歴の話っぽい。
 うーん多分キャッチーなのは『怪物の作り方』なんだと思うけど、デカルトでまさかアレとアレをつなげるのっていう気分になったから『少女人形フランシーヌ』を読んでみることにします。ごめん、客観的につまらないのを選んだ気がするから先に少しわかる範囲で解説。
 デカルトは娘のフランシーヌを5歳で亡くした。それでフランシーヌそっくりの人形を作って持ち歩いたという都市伝説がある。その奇矯はバレエの名作コッペリアとなり(コッペリアのベースとなった娘の名前はフランシーヌ)、つまり遠くはからくりサーカスのフランシーヌもきっとここから来ている、動かしている方だから逆転してるけど。
 デカルトは哲学者で全てを否定して残るものを真として真理を定義しようとした哲学者だが、その真理判定方法の最初の方に神が出てくるので今の人にはちょっとわかりにくい、というかピンとこない考え方をする。時代背景が違うとしか言いようがない。でもこの思想から考えるとデカルトが人形を持ち歩くとはあまり思えないのだが、この辺を書くと大長編になりそうなので渇愛。

3.中身
『少女人形フランシーヌ』について。
 冒頭からデカルトの思想の一部が開示されるけれど、これここだけ抜き出されても原著の概要くらいは知ってないと意味がわからないだろと思う程度には読者置いてけぼり感。
 デカルトが当時じゃなくても胡散臭い人物であったのはさておき、ちょっとした隙間から胡乱な話に持ち込もうとするので筆者は論説家というよりは小説家、はたまたアジテーターだなと思うわけ。
 それでデカルトの哲学的な話からデカルトの精神分析にうつり、そこから彼の家族やその他の女性関係に対する考察が広がっていくわけだけど……これ、基礎情報をごっそり抜いてるのはわざとなのかな。前後の文脈を無視して要所要所をかいつまんでつなげで間を詩的な印象だけ残りそうな文字で埋めているあたり、怪文書の類な気がする。
 その後話は唐突に当時の人形を含む機械技師たちにうつり、何がなんだかよくわからないまま〆られた。ちょっと煙に巻かれた気分。
 選んだ章が悪かったのかもしれないが、多少なりともデカルトの思想や当時の価値観をしっていないと意味がさっぱりわからない小難しい文章を解説乏しく延々と並べ立てているあたり、まさに少女人形フランシーヌか何かが頭の中で複雑怪奇に組み上がっていく過程のような気がするけれど、趣旨がなんだかよくわからない、神秘主義敵な内容でした。
 他の章はどうなんだろうか……よくわからないな。
 小説に使えるかどうかだけれど、このフランシーヌしかりフランケンシュタイン、ゴーレムしかり、それらの怪物をメインテーマに深堀りしたいときは参考になるかもしれないけれど、そもそもこれら自体が現代から見ると使い古されたネタなので、使用場面は限定される気がする。

4.結び
 わりにマイナスのことしか書いていないような気がしてきたけれど、この胡乱な文章は嫌いじゃないし、胡散臭い内容も嫌いじゃない。よく考えたら自分もこんな感じで(もう少しすっきりとはしているけど)煙に巻くタイプの人間を書いているので、親近感はなくもないのだ。とはいえほかも全部こんな感じだったら慣れてないと読みにくいだろうなとは思う。
 次回は井上靖監著『古美術読本 4 建築』です。
 ではまた明日! 多分!

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