貧乏東大生のお悩み相談室vol.2「アーティストになりたいんだけど……」

Q.布施川さん、こんにちは!僕は地方在住の高校生です。
僕は将来的にアーティストになりたいのですが、アーティストになれなかった場合などなど、色々将来のことも考えて、取り敢えず関東の国公立大学に行きたいと考えています!

金銭的な事情から、浪人や私大進学はできませんが、経験を積むためにも東京で音楽をやりたいためです。

もちろん100%アーティストになれるとは思っていませんが、ただ、アーティストになれてもなれなくても、できれば最終的に音楽に携わりながらお仕事をしたいと思います。
どういう大学に行けばいいでしょうか?

A.お答えします!
回答の前に一つだけ断っておきますが、僕は「できるかできないか」ではなく、「やるかやらないか」の観点から選択肢を提示しています。

正直、周りの大人からは「今の時点からここを目指すのは現実的じゃない」と言われてしまうような大学、進学先も提示していますが、そこは君の努力次第だと思います。

ただし、夢をかなえた人の多くは「できるかできないか」ではなく「やるかやらないか」で挑戦し、成功しています。
できることをするのではなく、挑戦することにも価値があると思いますので、そのように致しました。

一方で、あなたはご家庭の事情から浪人を許されていないということから、志望する大学によっては、下手なすると、一年間を棒に振ってしまわれる可能性もあります。

もちろん自宅を出てアルバイトなどをしながら浪人するという選択肢もありますが、そこはすべて君の人生になりますから、ここはよく考えて選んでください。

残酷なことを言うようですが、僕は君ではありません。
まず、最大限、僕は君の進路決定に責任を持ちたいと思っています。
しかし、君が選んだ道ならばそれを尊重したいとも思います。

ですから、すべてが終わった後に、もし失敗した、決断を間違えたと思ったとしても、「布施川が言ったから、この選択をしたのに成功できないじゃないか!」というのはナシです。

僕も同じ覚悟で東京大学の受験に挑みました。
何を選んでもすべて自分の責任。
ここから先の人生はそういう世界です。

さて、肝心の回答に入りましょう。
まず、アーティストとして大成したい場合。

これは東京藝術大学一択かなと思います。
ここは日本唯一の芸術分野を学ぶことのできる国立大学であり、日本の芸術大学の最難関といわれています。

ここ出身のアーティストだと、音楽関係の有名どころでいえば、作曲家の宮川彬良さん(夕方クインテットの人です)や、坂本龍一さん、オペラ歌手の森公美子さんやヴァイオリニストの葉加瀬太郎さんなどがいます。
世界を相手にして戦う音楽家になりたければ、ここに行くのが早いでしょう。

入学するためには、もちろん国公立なのでペーパーテストがありますし、実技試験もあるようです。
ここの声楽や作曲などに入れば、かなり体系的に音楽を学ぶことができますから、音楽業界で食っていくにはかなり有利に働くはずです。

もちろん最難関というだけあって狭き門ではあります。
入試にはまずピアノが必須、それ以外に実技として学部学科により異なる課題が課されます。
ここは浪人当たり前の世界でもあります。よく考えて選択してください。

ただ、XJAPANのYOSHIKIなどは音大(藝大ではありませんが)の受験を元々志していて(結局はいらなかったようですが)、その時代の音楽理論の勉強が役に立っているとのことです。
ですから、藝大を目指すにせよ目指さないにせよ、音楽理論の勉強を積むのはいいかもしれませんね。

そして、音楽家にならない場合ですが、理系で音楽系に就職するとなると、やはり音響工学系の選択肢が強いでしょう。
関東圏で音響工学を学ぶことのできる大学は少ないですが、僕の調べた限りだと、

・千葉大学
・東京大学
・東京工業大学
(ここは「学べるかも」くらいです)

くらいが挙げられるかなと思います。
もちろんこれ以外にもあるとは思うので、ここ以外の大学についてはご自身で調べてみてください。

まず、音楽の仕事以外にあまりやりたいことがなく、選択肢を広げたいため大学に進学するということであれば、東京大学は割とお勧めできるかもしれません。

東大の場合、最初の二年は「教養学部」というところに全員入れられて、三年から専門学科での勉強にうつります。
最初の二年は色々な事を幅広く学べるという意味で、大体の人は満足する授業を見つけることができると思います。

ただし、専攻を決める際に「進学振り分け」という制度があり、これが非常に厄介です。
進学振り分けは「教養学部時代の二年間の成績によってどこに行けるのかが決まる」という制度です。
早い話が東大入学後も行きたい学部をかけて受験勉強をしなければならないということなのです。

文系でも死ぬ気で頑張れば医学部医学科に行けるという意味では夢がありますが、点数が足りなければどれほど志望していてもその学部学科に行けないということもあります。
最初からやりたいことが決まっている人には、僕は東大はお勧めしていません。

確か東大にも音響工学系の研究をしている研究室があったと思いますので、もしここに来れれば将来的に就職を考えたとき、何らかの形で音楽に携わることのできる確率は高まるのではないでしょうか。

ただし、進学振り分けに勝てれば、の話です。
特に教養学部は割といろいろな授業がありますから、その後に別の興味が開いた時には進路を変えやすいですが、それがいい方にも悪い方にも転んでしまうのがキズですね。

千葉大学については工学部の中に音響工学の文字があったので、専門的に学べるのはほぼ確定です。立地的にも東京からそこまで離れていませんし、東京よりは地価も安いですから、割と選択肢に入るのではないかと思います。

実は僕もここを滑り止めとして受験する予定だったのですが、東大に受かったのでやめたというエピソードがあります。
それと、僕のかかりつけ医の先生は東大文学部を出た後に千葉大学医学部を受験して医者になったそうです……すさまじいですね。

ただし、千葉大学はどうやら留学を必修としているようです。
留学となるとかなりの金額が飛んでいくので、ちょっとここは金銭事情とよく考えてみるべきかもしれません。


東京工業大学には音響工学研究所があるのかわからなかったのですが、音楽学を専門にしている教授がいるとのことなので、もしかしたら音響工学なども学べるかもしれません。

ただ、この方の論文や研究などを見ていると日本古典舞踊の"能"についてを扱っているものが多く、あなたが望んでいるような現代的な音楽の学習はできないかもしれません。

ちなみに東京工業大学は日本でも最難関の理系大学です。
一応東京大学が一番難しいということになってはいますが、理系分野だけで言ったら東京工業大学の方がずっと難しいです。
めちゃくちゃ優秀な人が行く大学です。

ただし、なぜか「東京工業大学」というネームバリューは低いんですよね……
旧帝大レベルの実力はあるはずなんですが……
「工業」と入っているのが少しFラン感を出しているのでしょうか?

さて、ここまでいろいろな大学を見てきましたが、まとめると、僕がおすすめするのは下記の四つです。
もちろんこれが全てではありませんから、ご自分でも色々と探してみてください!

・東京藝術大学
・東京大学
・千葉大学
・東京工業大学

どれもこれも一長一短だったと思います。
どこがいいの?と言われれば、ここから先は、ご自身で責任をもって決めることです。
人生全て、誰かの言いなりになってしまってはいけませんからね。

決め方のヒントとして僕から一言言わせて頂けるのであれば、あくまで僕の個人的な感想ですが、「やって失敗したこと」よりも「やらなくて失敗すること」の方が後悔のダメージは大きいように感じます。

僕も元々は吹奏楽をかなり熱心にやっておりまして、才能があったかは別として、割と上手な方だったかなと思います。
将来的には音楽で食べていければとも思っており、実は音楽大学を、特に東京藝術大学に行ければと思っていたのですが、諦めたという過去があります。

理由は色々とあります。
受験するには自前で楽器が必要なのですが、僕のやっていた「チューバ」という楽器は非常に高価で、貧乏だった僕の家では用意できなかったですし、ピアノもゼロから習得しなければなりませんでした。

音大受験となれば専門の講師が中々いないので、ちゃんとした音楽教室に通うとか家庭教師を頼むなどしなければなりませんが、もちろんそのお金もありません。

しかも浪人当たり前の世界ですから、いつまで経っても合格できなければ僕はきっとダメになってしまいます。
だって落ち続ければ「ただの楽器が上手い無職の男」ですからね。
浪人生って、社会的にみればただの無職です。みっともなくて情けない存在です。

更に言えば、高校生の時の僕の家の暮らし向きがよくなかったのも原因でした。
母が病に倒れ、父の務めていた会社もかなり経営が傾いたため、父が急遽独立を決意すると、非常に不安定な時期でした。

あそこで母が亡くなっていたら、父が事業に失敗していたら、色々と「詰み」ルートはあったのですが、いま僕がこうして生きてあなたとお話しできているのは、まさに奇跡でしかありません。
そんな綱渡りを強いられたので、せめて将来は安定したいと思ったのです。

音楽家になって安定した生活ができるか?
100歩譲って、自分が貧乏なのはいいが、自分の嫁と子供に貧乏な生活を強いられるか?
もしも挑戦した結果として成功しても失敗しても、僕自身また貧乏になったら、僕は誰かを恨まないで生きていけるか?

色々と考えた結果、音楽で生きていくことを諦め、東大受験を志したのです。
東大にしたのは、ネームバリュがあって、卒業後の選択肢が非常に多そうで、コネもできそうだったからですね。

ただ、いま当時の選択を後悔していないかといわれれば、とても心残りがあると言わざるを得ません。
やはり、あの時に挑戦しておけばよかった」という思いは、きっとこの先僕がいくつになろうと拭い去ることはできません。

「ラ・ラ・ランド」という映画がありますが、あの映画もラストは「ありえたかもしれない未来」を映し出す形で終わります(ネタバレになったらごめんなさい)。
それが大人になるということでもありますし、しかし、いつまで経っても後悔は心に残り続けるだろう証明にもなります。

僕も含めて、人はみんな人生の中で無数の選択を迫られると思います。
それが最良の選択であったかどうか、最低の選択であったかどうかは、事が起こった後にしかわかりません

順調に言っているように見えても、今回のコロナショックのように、一瞬で全てが崩れ落ちてしまうことだってあります。
全ては必然と偶然の危うい均衡の上に成り立っているのです。

この世に生きる人はすべて、テニスの試合を観劇している観客のようなものです。
ネットの上に落ちたボールがはじかれた末にどちらのコートに落ちるのかどうかは、誰にもわからないのです。

もちろん風向きだとかボールの回転だとか、それをコントロールする外的要因は無数にありますが、しかしこれに干渉する術は、コート外の我々にはありません。
結果は結果として受け入れなければならず、僕らにできることは精々が手うちわであおいでそよ風を作ることくらいしかありません。

面倒くさい話になってしまいましたが、要約すれば、「この先何が起こるかはわからず、それが起こるのを止めることだってできないのだから、その時その時にできることを全力で頑張ろう!」ということです。

僕だって後悔こそありますが、こうして皆さんと関わりながら、いろいろな人の進路相談に乗ったり、勉強の悩みを聞くこと自体は大変楽しみながら仕事させてもらっています。
これに関しては全く文句はありません。

妥協は後からいくらでもできるものです。
しかし、挑戦はその日にしかできません。
「思い立ったが吉日」ならば、その日以降はすべて凶日!なのです(これは僕の言葉ではなく、ネタ元は「トリコ」というマンガですが笑)。
今あなたが挑戦を望むのであれば、僕はそれを応援したいと思います!

というわけで、5年後、10年後の自分が後悔しない生き方を選択するといいと思いますよ!
アーティストを目指して、頑張ってくださいね!

よろしければサポートお願いします!