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まるでセレクトショップのようなショールーム!~「研究者」が子どもたちの「夢の職業」でありつづける未来へ~

植物のグリーンが美しく映え、デニムウェアやアロマオイルの瓶が並ぶウィンドウ。奥にはコーヒーサーバーも顔をのぞかせる、まるでセレクトショップのような研究設備のショールームを大阪・御堂筋で発見しました。 実験室といえば「ひんやりとした暗いねずみ色の実験台に、謎の試薬の染み」という印象を180°くつがえされます。しかも、ただおしゃれなだけではありません。その根底には、研究やモノづくりを次世代へつなぐという熱い思いが流れていました。


おしゃれなセレクトショップ?!

大阪・淀屋橋の駅に向かって御堂筋を足早に歩いていると、不思議なショップとすれ違いました。大きな花器に生けられた植物が見えるからフローリスト(花屋さん)? いや、生活雑貨も扱うセレクトショップかもしれない……。見れば見るほどショップへの印象はどんどん変化してゆきます。ついに5Lのバッファーボトルが見えたところで、何を扱うショップか完全に分からなくなりました。

硫酸銅も扱うセレクトショップ……?!

好奇心に火が付き、このままスルーなどできそうにもありません。思い切ってショップへと足を踏み入れてみると、突然訪問したにもかかわらず快く受け入れてくれました。こちらのテナントは、主に研究設備を扱うオリエンタル技研工業株式会社 が2021年10月にオープンしたショールームだったのです。

これはいよいよ詳しく知りたい――、おそるおそる取材を申し込むと、ソリューション本部の澤柳 陽(さわやなぎ よう)さんにインタビューのお時間をいただけることに。研究者の環境向上のために考案されたさまざまな工夫を、ぜひご覧ください!

研究者にヒラメキを

木目調が新鮮な実験台

研究者の五感を刺激し、心地よさを追求

―まるでセレクトショップのような雰囲気で、心の底から驚きました

澤柳さん「木目調の手触りを追求した実験台、向こう側が見える透明窓の試薬棚、ゆっくりと静かに閉まる引き出し。これらはすべて、研究者が心地よく感じられるように設計されています。単なるファッションではなく、研究者の五感を刺激して研究のヒラメキを引き出すことが目的です。

あのキムワイプですらスマートに設置されています!

今は素材の開発も進み、薬品にも強い木目調の素材が出ています。従来の『研究設備とはこういうものだ』という先入観から脱し、居心地の良いラボを演出する製品を創出しています」

―これまでの研究室は「黙々と一人で実験をする場所」という認識でした

澤柳さん「研究者にとって、異なる分野との交流は新しい扉を開く鍵です。アイデアの源であるコミュニケーションを弊社では非常に重視して商品展開をしています。例えば、対面で座ると人は無意識に心のバリアを張ってしまいます。そこで、目線を低めでコの字形で座れるミーティングセットなどを提案しています」

―床面から近いだけで、落ち着き感がアップしますね。研究報告も緊張せずにできる、かも……!


劣悪な環境に立ち向かった初代

 ―このような事業を始められたきっかけは?

 澤柳さん「1970年ごろ、理化学関係の商社に勤務していた初代社長の林 進は、劣悪な、いわゆる3K(キツい、汚い、危険)の研究環境を目の当たりにします。『日本の研究を良い環境へ変えたい』と思い立ち、1978年に研究設備メーカー『オリエンタル技研工業』を設立しました。

当時の日本と言えば、高度経済成長に伴って公害も発生していたほどですから、研究室内も有毒ガス等が適切に処理されていません。そこでドラフトチャンバーの開発を手始めに、実験台などへと広げました」

―なるほど、公害が起きるほどですから、実験環境の改善を考える人も少なかったでしょうね

澤柳さん「さらに近年、日本の社会やオフィスは働きやすさを重視してどんどん変化しているのに、研究室はその流れには乗れていません。そこで、コミュニケーションや居心地の良さというフェーズへと踏み込んだのです。

製造業において工場が『いかに効率よく血液を送りだすか』という心臓の役割だとすると、研究室は会社の顔であり、PRの場です。それに、研究者にとって研究室は起きている時間のほとんどを過ごす場所ですから、居心地は非常に重要ではないでしょうか」

曲線の美しい実験台

建物からもアプローチできる2代目へ

 ―研究室の居心地が良くなると嬉しいです!それにしても、本当にセンスの良いショールームですね

 澤柳さん「2代目の現社長・林正剛はアメリカでデザインを学んだ後に建築の道を志します。実は、初代の急逝により急遽(きゅうきょ)2代目へと代替り(だいがわり)したのですが、この逆境を時代のニーズをとらえる好機へと転換しました。研究設備の概念をさらに広げて『研究施設』自体の建築設計や、リノベーションへと業務を拡大しました」

―やはりアートに造詣の深い方がトップに……!

廊下にはアインシュタインやピカソら、「挑戦者たち」の写真が飾られている

澤柳さん「そもそも、研究所というのは非常に特殊で、守らなければならない法規がたくさんあるため、管理しやすさという目線でしか設計されず、働く場所としてスポットライトが当たってきませんでした。私どもは、ゼネコンさんが図面を引く段階から参加し、より居心地良くコミュニケーションが生まれる空間を提案しています」

―なぜ、図面の段階からプロジェクトに参加されるのでしょうか

 澤柳さん「ただ建物や交流スペースを作るだけでは交流は生まれません。人が交流するためには居心地の良さ、動線、透明性などの『しかけ』が必要です。実際、部門間の交流を促すしかけを求める顧客が非常に多いのです。

例えば、食の安全を求める消費者の要望を受け、食品分析会社様は非常に多忙です。分析業務は「精度、納期、コスト」、この3つを追求する場でもあり、働く人も業界全体も非常に疲弊しやすい環境です。

そこで、パルシステム生活協同組合連合会 商品検査センター様(東京都稲城市)向けのリノベーションを例に挙げると、間伐材を利用したナチュラルな雰囲気、明るい壁、クリアな窓などを採用し、業務効率や働きやすさを向上しました。さらに、腰高を低く設定することで、児童や車いす利用者も見学しやすい施設となり、市民がより業務を理解できる『PR施設』としての機能もアップしました」

©オリエンタル技研工業株式会社

省エネルギー化にも貢献

 ―明るいラボって見学に来たくなります。PR施設としての面を考えるとデザインは重要ですね

 澤柳さん「さらに、私どもはデザインだけでなく、エネルギー面などエンジニアリング面でも研究施設をサポートします。燃料高騰やゼロエミッションなど、今やラボ運営はエネルギー(電力)問題は避けて通れません。創業から扱ってきたドラフトチャンパーは、非常に大きなエネルギーを消費しますし、複数台運転すると空調が全く効かず冬は極寒の研究室になりがちです」

―確かに……冬はすごく寒くなります!

澤柳さん「合成系の研究所ではドラフトチャンバーが100台、200台というオーダーで動きます。電気代の高騰を受けて、照明を間引きする省エネ対策をされている施設もありますが、実はドラフトチャンバーを見直す方がはるかに高い省エネ効果を得られるんですよ」

 ―そんなにたくさん使用する施設なら、相当インパクトが大きいですね

 澤柳さん「開口部の開き具合に合わせて、自動で風量が変更する低風量ドラフト(プッシュプル型換気装置)を開発しました。従来の製品に比べ4割ほど風量を削減できますから、省エネに加えて運転音も非常に静かです」

 ―本当ですね、ゴーーーって音がしません!

遊び心で五感を刺激

―ショールームには、設備以外にもオリジナルのコーヒー、オーガニックコットンのデニムウェア、アロマ、チョコレートなど、本当にセレクトショップのようなグッズが並んでいます

澤柳さん「コーヒーやチョコレートは、脳へ刺激やリラックス効果があると言われています。海外では、研究者へおいしいコーヒーを提供するために、約160万/年の維持費をかけてエスプレッソマシーンサーバーを設置している研究所(米ハワードヒューズ財団主催 ジェネリアファーム研究所、ノーベル賞受賞者を多数輩出)もあるほどです。

カフェスペースは単なる休憩場所ではなく、研究者の方が集まって自然とディスカッションや異分野交流が生まれる貴重な場所なのです。日本の研究環境もこんな風に交流が自然に生まれるといいなと思い、ラインナップに加えました」

(右)数あるコーヒーからそのときの気分で豆を選ぶ 
(左)オーガニックコットンのデニムラボウェア サーフボードを添えて

澤柳さん「毎日着ている白衣も、デニムで仕立てると袖を通した瞬間にワクワクするウェアに変わります。もちろん、安全性や働く環境の改善が業務の揺るがない基盤です。その上で、遊び心をプラスして、研究者と取り巻く環境にインスピレーションを与えられる提案をしています」

―研究環境の改善によって目指しているのは、どのような社会ですか?

澤柳さん「子どもたちの『研究者になりたい』という思いを、夢やあこがれではなく本当にキャリアとして考えられるような社会です。かつて、ものづくりといえば日本が誇る産業でした。子供たちが憧れ、将来研究者や技術者になりたいと思えるような環境を世の中に生みだし続けたいと思っています。

サイエンスを日本の文化レベルにまで落とし込んで、もっともっと社会に浸透させたい、一部の人だけが携わるのではなく、広く親しみを感じられる社会をめざして、これからも社会にワクワクを提案します」

おわりに

セレクトショップのような外観に引かれ、吸い寄せられるように入ったショールーム。お話を伺うと日本の研究の未来を本気で考えてきた企業様であることが深く理解できました。それにしても、本当に「実験室」の概念が変わります。こんな居心地のいいラボで実験してみたいです!お近くへお越しの際はぜひショールームをのぞいてみてください。

ショールーム情報

大阪
オリエンタル技研工業株式会社 Sciencing Style OSAKA
〒541-0044
大阪府大阪市中央区伏見町4丁目2―14  
WAKITA 藤村御堂筋ビル

東京
オリエンタル技研工業株式会社 ブランド体験スペース「X/S」 
チョコレート等を購入できるショップ600(シックスハンドレッド)併設
〒101-0047
東京都千代田区内神田1丁目2―4

*ショールーム見学は要予約


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