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【ショートショート】日曜日から始まる(1)

【創作】6月最後の日曜日、彼は彼女と出会った。きっかけは、デパートの傘売り場。2人が同時に手を出した傘が同じだった。

「すみません」

彼女は小さい声で言った。

「先にどうぞ」 

彼は言った。

「ありがとうございます。この傘いいですよね。色も大きさも」

彼女は、さっきより少しだけ大きな声で、彼に話しかけた。

「俺も。晴れの日、男で傘差すやつ
あんまりいないけど」

頭に手をやりながら、彼は答えた。

「あ、私も、日傘用に使うつもりです」 

笑いながら話す彼女は目を細めながら照れるように答えた。

「同じだね」

「同じですね」

彼女は、傘を一つ手に取り
彼に

『どうぞ』

というように手を出して促した。

「ありがと。ちょうど2本あって良かった」

彼も照れながら、傘を一つ手に取り
そうして2人はレジに向かった。

会計を済ませ、互いに会釈して2人は別れる。互いに別方向へ歩き出し、その時、彼は後ろを向き、
彼女の背を見送りながら

「また、来週、此処で会えませんか。同じ時間に。あ、予定とかあるならいいけど」

彼は自分でも驚く言葉を口にした。

彼女は、ピクッとなり後ろを向いて

「はい。此処で、来週。同じ時間」

彼女も、どうしてそんな言葉が、自分から発せられたのか驚きながら、
そして、すぐ恥ずかしそうに目を細めた。 

「じゃあ、来週」

「はい、来週」

今度こそ、2人は別の方向に歩き出した。

『心臓がバクバクしてる』と

彼は思った。

『胸がドキドキしている』と

彼女は思った。

小さな小さな出会いだった。 


さて、2人が選んだ傘は、
ハンドルには高級木材が
施されていて 
傘生地表は、 
黒みがかったパープル。
裏側は、青みがかった薄いオレンジ色。高級感のあるデザインだ。

そして骨にカーボンを使用、
壊れにくくなっていて、  
ワンタッチで開閉できるなど、
使いやすい工夫も盛り込まれている傘だった。

傘から始まった男と女の出会い。


最後までお読みいただきありがとうございます


4日目

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