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【記憶より記録】図書館頼み 2304#1

 年度末に加え、その前後に咬ました小旅行の影響もあり、図書館から借りてきた本を順調に読み進めることができなかったというのが、ここ1ヵ月の感想です。また、前回から引き続き借りた本もあったので、読了の数は減る一方でしたね。( 焦らずに熟読できているのが勿怪もっけの幸い )
 とかく、旅先には本を帯同させるのが常とはいえ、流石に図書館から借りてきた本を旅先に持っていくわけにもいかないので、此度の旅では、noteでフォローしている方々の過去記事や作品を愛でておった次第です。

1:怪談四代記 -八雲のいたずら-
  著者:小泉凡 出版:講談社
とても有意義な時間を与えてくれた一冊となった。最初の一頁から気持ちをもっていかれた感がある。故に、再読を重ねたくて継続して借りた(4月9日返却時)。子孫ならではのエピソードも芳ばしいが、それ以上に響いたのは、八雲に導かれるかの如く人生を歩んでいく著者の様子である。運命と偶然の合間を漂うかのような体験 (しかしそれは、人間誰しもが経験しうることなのだけれど … )に触れていくうちに、一読者である私自身も八雲の術中にはまっていくような錯覚を覚えた。日本のフォークロアを開拓したとも言える八雲。彼が採取した怪談に通奏低音する自制や謙虚さの謎が、少しだけ理解できたような気がしている。
かつて、私は「鳥取の布団」という怪談を、なかなか寝付けないでいる幼い息子たちに話したことがある。かの「兄さん寒かろう?」「お前も寒かろう?」というセリフが心に沁みる悲しい話である。甚六の長男は、貧しい兄弟から布団を奪った家主に憤りをぶつけ、繊細な次男坊は、凍えながら互いを気遣う兄弟の姿を思い浮かべて涙していた。年齢差(5歳差)もあるのだろうが、兄弟の性格の異なりを愉快に感じた場面として覚えている。
記憶のみで口承できる八雲の怪談は、これからも連綿と受け継がれていくはずだし、そしてまた ” 普通の人々 ” の間で、極々自然に伝承されていくことを信じたい。 

2:旅の民俗シリーズ 第一巻 「生きる」 
  著者:旅の文化研究所編 神崎宣武 他5名 出版:現代書館
とても魅力的な本で、こちらも一定期間近くに置いておきたいと感じてしまい、此度も借りてきてしまった。私自身が、周縁の歴史 (特には一所不住の暮らしを紡いできた人々、若しくは、そうした生き方を選択せざる得なかった人々)に寄せる想いが強いので、琴線に触れる内容ばかりであった。
特に、宮城県は閖上ゆりあげ界隈(名取川河口に位置する港町)から魚を携えて行商に歩いた婦女子たちの話は、私が幼い時分に経験した幾つかの出来事に対する答えを明晰に提示してくれた。長い時を経て触れることができた実相に深い感銘を受けた。(近いうちに備忘しておきたい)
いつの世も、女性は強かしたたかだ(賢くて肝が据わっている)。周縁の歴史は、そんなことを教えてくれる。
 
3:江戸の魚食文化 -川柳を通して-
  著者:蟻川トモ子 出版:雄山閣
とても丹念にまとめられた本だと思う。魚食文化に絞ったことが功を奏したのだろう、川柳の例を含めて解説の密度が増したように思われる。例に挙げている川柳についても、川柳が持つ面白さ(洒落や符丁めいた言葉遊び)だけではなく、あくまでも江戸の暮らしを映す事例として川柳を精選している点にも好感をもった。
さてと … 時節は新緑を迎えようとしている。となれば 初鰹 の声が聞こえてくるはずだ。がしかし、清貧なる我が家は「初がつほ 初がつほとて まだくわず」のまま過ぎ去りそうである(苦笑)。

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