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暗い部分を隠さないでいたい。

いままで、自分のことをなるべく明るく見せようと頑張ってきた。自分の思っていることを話せば話すほど、「マジメ」とか「暗い」とか言われることが多く、周りにいる人とのズレを感じることが多かった。そのズレは小学生くらいから感じ始めていたが、高校生の頃には、もはや思い切って話すことは諦めていた。

とくに好きな音楽や本のことを話せる相手がいなかったのは淋しかった。曲や本自体ではなく、思想的なことを話すことはなかった。曲や本はあくまで媒介であって、それらを通して何を感じたかが僕にとっては最も重要なトピックだったが、それを晒すには臆病グセが付きすぎていた。

大学まで含めた学生生活では、文化的な意味での「恩師」とか「親友」みたいなものはいなかった。最も、怖がりの僕が胸の内を隠していただけなので、周りが悪かったわけではない。勝手に閉じていただけだと思う。

今、こうして書き綴っているようなテンションで話すと笑われることが多かったので、傷つかないようにするには仕方なかったと思う。僕はとても暗い人間なのだ。それをずっとずっと隠して生きていた。自分の暗い部分は人に見せてはいけないものだと思っていた。誰も得しないし、誰も喜ばせない。役に立たないものだと思っていたからだ。

僕だって、自分の明るい部分のほうが好きだった。なるべく人生の明るい部分だけ見ていたいと思っていた。自己啓発や心理系の本もたくさん読んだ。

だけど一向に暗い部分は消え去らなかった。定期的に顔を出してくる。忘れんなよ〜、と言わんばかりに毎月のように現れる。そのたびに、全力で抑えこもうとするが、間に合わない。すごい勢いで僕の全体を支配する。そのたびに気落ちする。ぼくは暗くて辛気臭くてネガティブでダメな人間なんだ、とますます落ち込んだ。

でもどこかで、落ち着いている自分もいた。心地よさを感じている自分もいた。わかってはいたけど、認めてしまうと、それは暗い自分に公式スタンプを押すようなものだ。違う、そうじゃないんだ、たまたま今は落ち込んでいるだけで、僕は本当は明るくて可愛らしいやつなんだ!と思いたかった。

Youth Lagoonというアーティストがいる。2011年に新譜で買って聞きまくっていた。当時DJをしていたのだけど、この曲を好きだとは公言できなかった。暗いと思われたくなかったからだ。

家でひっそりと聞き続けていた。

イベントでかけるのは、もっとダンサブルな曲だった。

僕の中では、Youth Lagoonとは対極にあるようなダンサブルな曲。みんなを喜ばせるための曲。もちろん僕も大好きな曲であるのは間違いなかったんだけど、僕の一部でしかなかった。ひとりで家から下北沢までの茶沢通りを歩くときに口ずさんでいるのは、前野健太の”伊豆の踊り子"なんかだった。

僕の日常はもっと落ち着いていてほしかったのだろう。僕は自分を整えるためによく珈琲を呑みに喫茶店に行った。下北沢の『いーはとーぼ』。かつてバイトとして働いてもいた。はじめて客として立ち寄ったとき、店に置かれた『ユリイカ』の坂本龍一特集を読んでいたら、マスターに声をかけられ、寺尾紗穂の話などをした。誰かの前で口にして「寺尾紗穂」という言葉を発したのは初めてだったと思う。松倉如子などを話しても全部通じた。すごいすごいうれしかったことを覚えている。


マスターは僕にとって”恩師”だ。学生でもなかったけれど、『いーはとーぼ』での日々は学生生活みたいだった。たくさん文化的なことを教えてもらった。セロニアス・モンクも、前野健太も、Beiruitも、河合隼雄も、内田樹も、中沢新一も、瀧口修造も、中西夏之も、草間彌生も、高橋恭司も、william egglestonも、田附勝も、みんなみんなその頃だ。マスターと話しながら、もしくはいーはの2階の窓ぎわの席から一番街を見つめながら、自分の暗い部分を何にも包まずにおける時間を過ごすことができた。

マスターには、何でも見てもらった。初めてのフィルム写真、初めて描いた絵。

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人に見せたら気持ち悪がられるだろうと思ってたけど、マスターはフツーに見てくれた。そして瀧口修造を教えてくれた。

初めてつくったアルバムも聞いてくれた。

いろんなものを見てもらったし、いろんな話をしたけれど、バカにされることは一度もなかったし、暗いと言われることは一度もなかった。

マスターに教えてもらったことを、本にまとめたいと思っている。
ライターでも編集者でもないが、マスターにインタビューして、マスターの考えていることを残しておきたい。自分のために。多分僕が60歳くらいになったとき、めちゃくちゃ役に立つと思うんだよな。
きっと僕は自分のことを暗いなんて思わずに済むと思うんだよな。

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