「ながら」をやめる。体験していることを全身で受け止める。
20代の頃、僕は喫茶店でバイトをしていた。小さな店で、席は5卓しかなく、ひとりで切り盛りできる広さだった。基本、マスターが常駐していて、夜間と日曜は、バイトが立つことになっていた。
喫茶店のバイトは週1しかなかった。僕はその頃、昼はハンバーガーレストランでバイトをしており、喫茶店のある日は、5時まではそのレストランで働き、一旦家に戻って少し休んで8時半から喫茶店に向かうことになっていた。
一時期、ちょっと落ち込むようなことがあり、何もしたくない気分なんだけれど、頑張ってバイトに行っていた。5時にレストランの仕事を終え、どんよりした気分で家に帰る。何も食べる気もしない。でも、お腹が空くのでコンビニでサンドイッチを買って、適当に胃に流し込む。
部屋を暗くして、少し前に洒落けづいて買ったアロマキャンドルを灯し、ベッドの上に横たわって、仮眠をとることにした。
寝付きが悪い僕は、イヤホンをして、iPod(当時はiPodが主流だったのだ)でYUKIの「うれしくって抱き合うよ」を流す。目をつむって、布団をかぶる。
気分は沈んだまま。YUKIの歌声で少しでも気が良くなればいいなと思って、耳を澄ます。しばらく聴いていると、いつも以上に音の解像度が高く聴こえてくる。ハイハットの音だけを聴いたり、ベースのリズム感に身を委ねてみたり、遠くで聞こえるシンセの音に気がついたり、曲を構成している様々な要素を細かく聴いていく時間になった。
いつもこんなふうに、曲を聞くようにすれば、音楽をもっと楽しめるんだろうな。何かをしながらではなくって、音楽だけをしずかに聴く時間を持つということを覚えたのだった。
昨日、Weezerの新作「OK, Human」を布団の中で、イヤホンをしながらじっと聴いていた。久しぶりに、ゆっくりと音楽を味わった時間だった。そして、すごく贅沢な気分になった。
できるだけ、「ながら」をやめていこう。1つずつ、目の前のことをじっくりと味わっていこう。今目の前にある、自分が体験していることを、全身で受け止めていこう。
おしまい
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