見出し画像

【日常エッセイ】近所には、夜の女王が住んでいる。

うつうつとした気持ちで部屋に入ると、どこからともなくアリアが聞こえてきた。

『復讐の炎は地獄のように我が心に燃え』
が聞こえてくる。
モーツァルト作曲のオペラ、『魔笛』。その劇中で、夜の女王が高々と歌うあのアリアだ。

歌声の主はおそらく、ご近所さん。音程もリズムも自由奔放。スタッカートの調子で、ルンルンと弾むように歌っている。
このアリアが『復讐の炎は地獄のように我が心に燃え』なんて物騒なタイトルであることを忘れてしまうくらい、明るい歌声だ。

歌い手の姿は見えないけれど、ニコニコしながら歌っているんだろうなと想像ができるくらい、その歌いっぷりは軽やかで清々しい。
感染者が…緊急事態宣言が…と重々しい声ばかりを耳にしていたから、たのしく弾む声にふっと気持ちが軽くなる。

このご機嫌なアリアは、その後数分続いた。

ほ。
うつうつとしていた気分がすこし、和らいだ。

近所に住む、夜の女王のおかげかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?