【日常エッセイ】近所には、夜の女王が住んでいる。
うつうつとした気持ちで部屋に入ると、どこからともなくアリアが聞こえてきた。
*
『復讐の炎は地獄のように我が心に燃え』
が聞こえてくる。
モーツァルト作曲のオペラ、『魔笛』。その劇中で、夜の女王が高々と歌うあのアリアだ。
歌声の主はおそらく、ご近所さん。音程もリズムも自由奔放。スタッカートの調子で、ルンルンと弾むように歌っている。
このアリアが『復讐の炎は地獄のように我が心に燃え』なんて物騒なタイトルであることを忘れてしまうくらい、明るい歌声だ。
歌い手の姿は見えないけれど、ニコニコしながら歌っているんだろうなと想像ができるくらい、その歌いっぷりは軽やかで清々しい。
感染者が…緊急事態宣言が…と重々しい声ばかりを耳にしていたから、たのしく弾む声にふっと気持ちが軽くなる。
このご機嫌なアリアは、その後数分続いた。
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ほ。
うつうつとしていた気分がすこし、和らいだ。
近所に住む、夜の女王のおかげかもしれない。
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