「最期まで聴力は残る」は本当か。
ふ、と気がつくと、そこは真っ暗闇だった。
光も音も、人の気配もなにもない。
でも、不思議と怖くはなかった。
むしろわくわくするというか、好奇心すら湧いている。
この異様な状況下で、のん気なものだ。
わたしは一歩、踏み出そうとした。
向こうには何があるのだろう、と気になって仕方がなかったから。
その時だ。
「ゆかり!」
母の声が聞こえた。
母が、何度も何度もわたしの名前を呼んでいる。
ああもう、はいはい。
わかったわかった。
今、そっちに戻るから。
*
あの時、母の声が聞こえてこなければ。
あの時、「そっち」に戻っていなければ。
わたしは今頃、この世にいませんでした。
わたしはあの時、心肺停止状態でした。
目を開けないわたしに向かって、母が何度も「ゆかり!」と呼んだところ、わたしは意識を取り戻したそうです。
人は亡くなるとき、最期まで聴力だけは残っているらしい──。
そんな噂を聞いたことがあります。「噂」ですから、本当かどうかはわかりません。
でも、本当かもしれない。
そんなことを思った、わたしの不思議体験です。
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ところで、この出来事がきっかけで持病が発覚したんですよね。突然死を引き起こす、先天性の難病でした。
「あの時」以外にも何度も失神を起こしたことがありました。でも、病気には気がつきませんでした。失神している時以外は健康体そのものだから。
しかも、当時はあまり周知されていない珍しい病気だったんです。だから、医師でさえこの病気に気がつくのは至難の業、とのことでした。
緊急入院したあの時、医師に「今までよく死ななかった」と褒められ(?)ました。
わたしはどうやら、運が良いようです(やったね!)。
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