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【連載小説】夏の恋☀️1991 シークレット・オブ・マイ・ライフ㉕

 救急車が病院につき。

 ぐるぐる車のついたベッドで桃子が運ばれていく。だれかはやく、たすけてください、って感じ。

 病院はのんびりしている。

 医者(せんせいは)、日射病かな。この人、みずのんでないでしょ。

 という。

「はあ」

 ダメだよ、夏は、水のまないと。あと塩分ね。こわいんだよ日射病というのは、ヘタしたら死ぬからね。

「え!?あの、」

 あの子大丈夫。点滴してるから。でもね、ほんとにこわいよ。細胞が壊れるから。筋肉も壊れる。あの子、さけのにおいがするけど、のませたの?

「はあ」

 だめだよ、お兄さん。子どもだろまだ。未成年です。沖縄の人はちょっと、もう、酒のみすぎだろう。

「はい。ごめんなさい」

 あなた、高校生? だいがく?

「大学です」

 どこ行ってんの。

「あの、京大です」

 へえ。文学部?

「医学部です」

 ほんと。あの、夜叉加味先生はまだいらっしゃる? わたしはね、九大なんやけど、夜叉加味先生に教えてもらったんよ。夜叉加味先生、そのあと京大にうつりおらしゃったけども。

「はあ。ちょっと、一回生なので、よくわからないです」

 そうか。専門ナニにするの?

「えっと、産婦人科かな」

 ほう、それは偉いのう。えらいわ。すごい。うれしいわ、なんか。がんばりゃ。

「ありがとうございます」

 夜叉加味先生によろしくいっておいて。といって医者(センセイ)は名刺を渡した。ボールペンで自宅の電話番号も書き、「ご無沙汰しております。深大寺です。長年の不通、ひらにあやまります……云々」とメッセージも書いた。

 これ、渡しといて。

「あ、はい」

 おれは両手で受け取った。

 心配せんでええ。よし。点滴終わったらかえっていいから。

「はい。ありがとうございます、先生」

 うん。よいよい。しかし偉いなあんたは。産婦人科て。割にあわんぞ。て、こんなこというたらいかんな。前途ある若者に。もうしわけない。でも偉いわ。子どもがすきなのか?

「はい」

 でもな、女が、女の医者がもっと増えないといけんな。だって女のことだしな。知らんし。わたしたちは。

「そうですね。はい」

 がんばり。応援しとるわ。

「ありがとうございます」

 先生、と背後から看護婦がいった。話がながい。というわけだろう。

 あー、はいはい。といって医者(せんせい)は席を立った。

 産婦人科? 京大医学部?

 なんでこう、おれはべらべらと、無為自然にうそがつけるのだろう。と思った。

 看護婦に連れられて、桃子のいる病室に行った。

本稿つづく


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