【連載小説】夏の恋☀️1991 シークレット・オブ・マイ・ライフ㊾
「それって、いつの話なの?」
「うん」
「いやならこたえなくていいけど」
「ん、あんま覚えてなくて」
「そうか」
「JJ、あなたのことが好きよ」
「うん。おれも」
で、どうすればいいんだ?
「桃子は何中なの?」
「ZZZ中よ」
「それは東京にあるの?」
「うん。ううん。α。βだったかな」
αとか、βてどこだよ、だから。聞いたことないけど。
桃子は、アルヴォ・ペルトの「鏡の中の鏡」を歌った。桃子がピアノを担当したので、おれはセロを歌った。
歌い終えて、桃子は一升瓶を飲み干し、二本目にとりかかった。
桃子は、今生きてるんだろうか、とふと思う。思ったが、生きていることは知っている。それどころか去年おれは桃子に会ったし。桃子は小学校の先生になったが、しばらくして辞め、図書館で非常勤職員として働いている。結婚もしている。子どもはいない。犬を二匹飼っている。
桃子が東京に帰ってから、手紙をもらった。この手紙には、全てのことが書かれていた。全てというのは、あったことがそのまま、出来事として書かれていた。経緯をぜんぶ書いていた。上に書いたこと全部が。感情とか、理由とか、なんで?とか、そういうことは一切書いてなかった。読んで、見事な文章だとおれは思った。
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本稿つづく
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