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【連載小説】夏の恋☀️1991 シークレット・オブ・マイ・ライフ㊺

 起きて。

 女の夢を見た。桃子と、知らない女と、また知らない女が出てきた。中国語を話している。桃子も。まとわりついてくるので、やめてくれと思う。複数のおんなは苦手だ。猿みたいに高い声で鳴く。酔っ払っている。桃子は酔ったふりをしている。合わせて。

 生身の顔。ほんとうの自分の顔ではない顔で、女たちは騒いでいる。酔っ払った女は怖い。若い女だととくに怖い。

「あなたは女を強姦する」

 と、中国人の女に予言される。

 おれは眠りから覚めて、息をつよく吸って、起きた。

 14時10分。

 玄関先で犬が吠えている。そのころうちは犬を飼っていた。

 また寝ようとしたが、ねむられない。はやく今日が過ぎればいいのに。桃子に会える明日が来てほしい。きょうは何もやることがない。嫌すぎる。

 たえられない。妹が部屋に入ってくる。稲中卓球部の新刊は買ったかという。買ったと思うという。三星書店で買ったような気がする。まえに。

「どこにあるの」

「つくえのうえ、見て」

「きたない」

 なにを。乱雑だが、不潔ではない。妹たちの部屋は、片付いているように見えるが、不潔だ。スナック菓子のカスとか、なんか変な水で床が濡れている。きも。

「ないけど」

「じゃーそれが最新刊でないのか」

 妹は片手に稲中卓球部を持っている。

「それ何巻?」

「〇巻」

「え?」

「〇巻」

 ああ、風邪をひいたのだ。ちょっと視界もぐるぐるするし。音(おん)がいつもより大きく聞こえる。

「風邪薬と水をもってきて」

「風邪ひいたの?」

「うん」

 おかーさーん。と妹。次に目をあけると、盆に食べものと薬と水。果物もある。おれは薬をのんで、目をとじた。

 おれはプリンスだ。風邪の王子。


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本稿つづく 

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