![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/148034565/rectangle_large_type_2_8d30b74bbe04715953d2c36db23853f7.png?width=1200)
【連載小説】夏の恋☀️1991 シークレット・オブ・マイ・ライフ㊺
起きて。
女の夢を見た。桃子と、知らない女と、また知らない女が出てきた。中国語を話している。桃子も。まとわりついてくるので、やめてくれと思う。複数のおんなは苦手だ。猿みたいに高い声で鳴く。酔っ払っている。桃子は酔ったふりをしている。合わせて。
生身の顔。ほんとうの自分の顔ではない顔で、女たちは騒いでいる。酔っ払った女は怖い。若い女だととくに怖い。
「あなたは女を強姦する」
と、中国人の女に予言される。
おれは眠りから覚めて、息をつよく吸って、起きた。
14時10分。
玄関先で犬が吠えている。そのころうちは犬を飼っていた。
また寝ようとしたが、ねむられない。はやく今日が過ぎればいいのに。桃子に会える明日が来てほしい。きょうは何もやることがない。嫌すぎる。
たえられない。妹が部屋に入ってくる。稲中卓球部の新刊は買ったかという。買ったと思うという。三星書店で買ったような気がする。まえに。
「どこにあるの」
「つくえのうえ、見て」
「きたない」
なにを。乱雑だが、不潔ではない。妹たちの部屋は、片付いているように見えるが、不潔だ。スナック菓子のカスとか、なんか変な水で床が濡れている。きも。
「ないけど」
「じゃーそれが最新刊でないのか」
妹は片手に稲中卓球部を持っている。
「それ何巻?」
「〇巻」
「え?」
「〇巻」
ああ、風邪をひいたのだ。ちょっと視界もぐるぐるするし。音(おん)がいつもより大きく聞こえる。
「風邪薬と水をもってきて」
「風邪ひいたの?」
「うん」
おかーさーん。と妹。次に目をあけると、盆に食べものと薬と水。果物もある。おれは薬をのんで、目をとじた。
おれはプリンスだ。風邪の王子。
#創作大賞2024
#小説
#連載小説
#桃子
#風邪の王子
#1991年
#夏の恋
#シークレット・オブ・マイ・ライフ
本稿つづく
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?