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ミラノ風チキンカツ

私はデパ地下の総菜売り場でアルバイトをしているのだが、今日ふと気になる商品名を見つけた。「ミラノ風チキンカツ」だ。(画像は全く関係ないカツだ。上野で食べた新潟グルメ・タレカツ丼である。)

ミラノ風、チキンカツ。何やらキテレツ料理の香りがする。そもそも「カツ」って日本料理ではないのか。ミラノ風とは…なんて考えにとらわれたせいで、10%引きと1割引きを間違えて「10割引きです」と言ってしまった。危うくタダでお弁当を売るところだった。

帰ってきて、まず「カツ」という料理について調べた。
カツとはカツレツの略だそう。ではカツレツとは何か、というと、「フランス料理のコートレットを日本風にアレンジした洋食、らしい。もともと、コートレットとは仔牛肉をスライスしたものに細かいパン粉をつけて炒め焼きしたもので、日本に伝わって改良が施されるうちに、大きめのパン粉をつけて多量の油で揚げる「カツ」という料理になったようだ。日本では、カツというと豚肉を使った「豚カツ」をイメージしがちだが、もともとは牛肉を使った料理なのだ。最初に豚肉を用いて「ポークカツレツ」を出したのは銀座のフランス料理店らしい。

「豚カツ」というと和食のイメージだが、元は洋食に区分されていたというのには驚きだ。確かに、「カツレツ」という言葉には、「ビフテキ」などと同種の、どこか大正ロマンの香りが漂う。「カツ」は箸で食べるイメージだが、「カツレツ」というと途端にナイフとフォークで食べたくなる。

Wikipediaの「カツレツ」のページを眺めていると、こんな文章が目に飛び込んできた。

なお、フランス料理のコートレットは、イタリア料理のコトレッタ(ミラノ風カツレツ)、ドイツ料理(ウィーン料理)のシュニッツェル、ロシア料理、ウクライナ料理のコトレータなどとも関係がある。

Wikipedia「カツレツ」

ミラノ風カツレツ!?突然目の前に現れた答えに、私は恐る恐る「コトレッタ」をクリックした。

ミラノ風カツレツとは、イタリア料理の「コトレッタ・アッラ・ミラネーゼ」のことらしい。そのまま、ミラノ風のコートレットという意味だ。フランス料理のコートレットと同じく、伝統的には仔牛肉にパン粉をつけてバターで揚げ焼きにする料理であり、最近ではレモンスライスや、トマトとルッコラを添えるバリエーションもあるそうだ。

つまり、私がキテレツ料理と勘違いした「ミラノ風チキンカツ」とは、れっきとしたイタリア料理だったのである。

では「ミラノ風チキンカツ」に違和感を感じる感性がどこから来たのか、というと、やはり「カツ」という料理があまりにも和食面していることに起因するのではないかと思う。

一口にカツと言っても、日本では膨大なバリエーション、派閥がある。豚カツにヒレカツに串カツ、味つけの違いで言っても、ソースか味噌か、あるいはタレに浸すのか、定食か丼ぶりか…など、伝統料理ばりの発展ぶりだ。
あまりにも和食面をしている外国由来の料理といえばラーメンやすき焼きなども同類である。

ここで「日本人は外から取り入れたものを改造するのがうまい」というお決まり論調に突き進んでもよいのだが、一つ面白い情報を付け加えると、このミラノ料理「コトレッタ」は、どうやらオーストリア料理「シュニッツェル」と本家争いをしているらしいのだ。シュニッツェルも仔牛肉に衣をつけて揚げ焼きにする料理であり、見た目は酷似している。どっちが先でもいいような気がするが、12世紀の文献やラデツキー元帥の手紙などを引っ張り出したり、市議会で「これはミラノ料理である!」という決議をとったりして、なかなか熾烈な戦いを繰り広げているようである。

ヨーロッパでバチバチの本家争いをやっている中、「カツ」として独自進化を遂げ、「katsu」という日本料理が欧米にも知られているというのはなんというか、皮肉なことである。そもそも、「ミラノ風チキンカツ」という言葉がキテレツ料理に聞こえてしまうということがその証左だろう。キテレツ料理なのは「ミラノ風」の部分ではなく、むしろ「カツ」の方なのである。

いっそ「ミラノ風コトレッタ」とする方が、ミラノ料理の関係者には誠実なような気がするが、そこはビジネスである。「ミラノ風チキンカツ」の方が通りが良い。私のように違和感を感じて目が留まることもあるだろう。

今日は無駄にカツに詳しくなってしまった。今は金欠なので、来月くらいになったら美味しいカツを食べに行こうと思う。


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