サムライ 第16話

【前回の話】
第15話https://note.com/teepei/n/nfcd48df74907


 ここ数年でサムライポイントの熱が上がる一方、最近の事件ではそんなキーワードを耳にする。暴力による強要やスキミング、その他違法な手段を利用してポイントを強奪する行為、またはその行為を行う者たち。そもそも公平な価値のもとで配布されるポイントなのに、売買市場が深くに潜り込むほどポイントに掛かる価値が高くなると言う。売買そのものが違法ではないものの認められてはいないため、売買の記録や履歴は闇に潜りやすい。そのためポイントの売買で動くお金の流れを利用して資金洗浄を行うという、さらに闇の二次利用が行われているらしい。売買市場に掛かる地下経済の圧力が強く複雑であるほど深くに潜り込み、巨額の資金が動いている。そしてサムライ狩り達が強奪したポイントもまた、この市場に投入されているのだ…というのが週刊誌から得た知識だが、まあ、正直途中からほとんど理解できない。サムライ狩りの背景は結構根が深いから気を付けよう、という辺りの理解で妥協してみて、ひとまず分かったことにしておいた。
「物騒なネーミングですよね」
 森井と共にカツアゲくらいはしていたはずの山辺が抜け抜けと言う。サムライ狩り、か、と再び徳本さんが呟く。今度は深い黙考だけではなく、表情にかすかな険が走ったように見えた。
「だけど山辺、ポイント貯めてさ、何かしたいことあんの」
「そうですね、今一番考えてるのは、家を買うローンを組む時とか」
「え、家買うの?」
「いや、今すぐには無理ですけど。でもポイントが保証になって審査にはかなり有利になるらしくて」
 不安定な思春期を駆け抜けた反動だろうか、悪い冗談と思えるくらい堅実な発想に居心地悪さを覚え、自らの身の振り方まで考えさせられてしまう。
「ポイントもまだまだ足りないですけどね」
 と照れくさそうに笑う山辺に、悪い冗談だね、とはさすがに言えない。ふーん、色々考えてるんだなあ、と言葉を濁し、そろそろ将来のことでも考えてみるかな、と思ってみる。

 サムライポイントの評価は実にまめに行われていた。落ちていた空き缶を拾ってごみ箱に捨てたことが何度かあり、その後に送付されたポイントには内訳としその行為と日付が載っていた。どこで俺を見ていたのかと思うと返って不気味だが、その不気味なほどすべてをみそなわす目のような存在が、サムライポイントに対する説得力を与えている。正当な行為によってサムライポイントを得ようとする人々は自然と自らの行動を律し、人を助け、そして社会を公平かつ円滑に営めるよう心掛ける。ポイントの付加を狙ってのことではあるが、動機はどうあれその行為は世の中を良い方向へと導いていく。そして行為に伴うようにして、動機に含まれていた不純さが浄化されていき、いつしか義を行うことの本質を見る…と、そこまで行くかどうかは分からないが、取りあえず俺もサムライポイントを意識して行動するようになった。転がる空き缶を見るとどうしても捨てたくなる生理的な癖をようやく役立たせる時が来たのだ。
(続く)

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