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罪 第12話

【前回の話】
第11話 https://note.com/teepei/n/nc71aec663523

めいっぱい怖くて、水の中だから泣いててもよく分からない。
水面を見ると、さっきの崩れだした大橋先生がほとんど黒いドロドロになって僕を追ってくる。
ただでさえ駄目になりそうなのに、それだけじゃまだ足りないってわけさ。
助からない。
男の人と生田君も僕のせいで死んでしまったことを考え、もう謝ることもできなくて、それこそ真っ黒いドロドロみたいな気持ちになって、真っ黒に飲み込まれて、僕も死んだ。

でもそのとき、もう一方の腕を何かが掴んだんだ。

「捕まえたぜ」
そういって、黒いドロドロを突き破ってきたのは、谷崎君だったんだ…

         ***

ベビーブームの到来、団塊の世代。
さらにその次世代に及ぶ人口の過渡期が落ち着くと、出生率は次第に下がっていく。
かつて多くの子供を擁した小学校は、次々に廃校へと追い込まれていった。
出生率減少の象徴と見られるに過ぎなかったが、しばらくすると有効なスペースとして再利用する動きが起こる。
まずは芸術活動を主体とした再利用が成功を収め、より営利を主体とした活動に対しても開かれていくことになる。
再利用に名乗りを上げた企業の中には、インターネット流通最大手の企業があった。
巨大な流通網を基盤として更なる資本を確立し、現在は多岐にわたる研究開発を行っている。
遺伝子情報管理、人工知能開発、仮想現実空間開発、頭脳間接続技術の研究、等々…もちろん事業拡大を目論んだものであるが、そこから派生した技術を駆使することにより、小学校を小型のアミューズメントパークへと改変する提案を打ち出す。
先進的なイメージを特色とする都市型地方公共団体がその提案を受け入れ、最新技術を集約した未来型体感施設が誕生したのだった。

その施設は『シャングリ・ラ』と名づけられた。

かつて住宅のあった一帯は、今やビルが林立している。
その近代的な一群を分け入ると、郷愁を誘う校舎の外形が唐突に現れる。
しかしその中身は、驚くほどに先端を行く体感型施設。
極端にかけ離れたそれぞれの要素が見事な調和を見せ、現実と乖離した世界観を実現していた。
提供されるアトラクションには、常設されている設備と流動的に入れ替わる設備があり、入場には事前購入のチケット制をとっている。
(続く)
【次の話】
第13話 https://note.com/teepei/n/n2453d26769fb

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