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罪 第13話

【前回の話】
第12話 https://note.com/teepei/n/n9b36e8c5043e

開業当初、予想をはるかに超えた来場者数を記録し、運営に混乱をきたす恐れが生じた。
チケットを事前購入にすることで入場人数の管理を容易にし、さらには場外の行列を回避して円滑な運営を可能にしたのだった。
正門をくぐると女性の受付スタッフが迎えてくれる。
チケットと引き換えに畳まれた白紙と薄いゴーグル型のヘッドマウントディスプレイが渡され、そのまま本校舎の昇降口へと続く。

昇降口は開放されているが、入ってすぐに外光は届かなくなる。
暗闇が続くかと思いきや、たどり着いた扉を開けると今度は外光と見まがう光が降り注ぐ。
地面は青草に覆われ、晴れ渡る青空がある。
建物の中に入ったはずが外に出て、まったく別の場所に転送されたかのような錯覚を得るのだった。
丘の上と思しきその場所は、際に立つと眼下に景色が広がり、どこまでも牧歌的な光景が続く。
勿論、拡張現実技術によってヘッドマウントディスプレイが見せる体験映像ではあるが、踏みしめる青草は本物だった。
極端に水分を必要としない遺伝子改良と特殊な土壌によって、室内でありながら植物の力強さを失わずにいられる。
他の植物も大抵は本物で、恵みを与えているのは太陽光の代わりになる特殊な光。
光は人肌に太陽光と同じ感触を与え、通常の植物に対してもその恵みは有効である。
施設内の植物達には特殊光に対する改良が施されているため、より豊穣とした調和を体感させてくれるのだった。
光には特別な波長が含まれており、それは青空の再現を発生させる記号でもある。
感知すればディスプレイがどこまでも透き通る青空を構成する。
渡された白紙を開けば立体映像が展開し、様々な案内を提示してくれた。
その中で、各自に場所が与えられていることを示す説明がある。
誘導され、指定の位置に横たわってみる。
青草のしたたかな弾力に触れていると、まるで地面が体に沿うように隆起とくぼみを作り出す。
リクライニングシートの適応性をはるかに向上させた姿勢が提供され、手元にある何かの端子に気付く。
ヘッドマウントディスプレイが、自身の右脇に取り付けられた差し込み口について説明している。
従い、端子を差込口へと挿入する。

体が落ちる。
ほんの数秒その感覚が続き、ふと安定する。
様子を見て取る余裕を少しだけ得れば、周りは暗闇。
地面があり、自分が立っていることを知る。
無意識に自立していたことへの違和感から足元に目をやると、何かがちらつく。
よく見るとそれは線であり、縦横に引かれて細かいグリッドを生成している。
と思った次の瞬間、爆発的にグリッドが広がり、グリッドには質感が加わり、そして世界が現れる。

『ヨウコソ シャングリ・ラ へ』
(続く)
【次の話】
第14話 https://note.com/teepei/n/nd29ea8ebf05f

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