サムライ 第20話

【前回の話】
第19話https://note.com/teepei/n/nbf1ea2efe76d

 病院に付き添い、待合室で待っていると、徳本さんがやってきてくれた。
「奥さんは」
 と尋ねると、知り合いに任せてあるから大丈夫だよ、という。
 それから俺の隣に座り、森井の意識の回復を待った。
 その間に警察の事情聴取を済ませ、気付くと日がすっかり暮れていた。
 山辺に知らせるべきか迷っていた。
 今は堅実とは言え、森井のこととなれば我を忘れるだろう。
 そのことを徳本さんに相談したが、教えてあげなさい、という。
 さすがに不安が残るが、徳本さんが落ち着いて対処するよう電話口で説得する。
 そして病院名を伝えた。山辺はこの病院を知らないようで、
「それならスマートフォンで検索すりゃいいだろ」
というと
「俺、方向音痴なんです」
 とこんな時に意外な事実を知らされる。

 最寄りの駅までなら来られるというので、迎えに行くことにした。
 返ってその方が山辺の暴走を管理できるのでちょうどいい。
 今の山辺なら街行くそれらしき輩に食って掛からないとも言えない。
 それが良いんじゃないか、と言ってくれた徳本さんに森井のことは任せ、俺は駅に向かった。
山辺が来るのに少し時間が掛かり、その間に徳本さんから連絡がある。
 森井の意識が回復した。
 その報告に安堵してしばらくすると山辺が現れた。想像通りの切羽詰まった表情をしていた。
 既に夜の八時を回っていた。
「徳本さんと、約束しましたから」
 意識が回復したことを伝えたのもあるからか、その台詞にしがみつくようにして山辺は冷静を保とうとしていた。

 それから二人して無言のまま病院に向かった。

 病院に到着し、病室に入ると、静かに森井が横たわっていた。
 腫れた瞼がうっすらと開かれ、意識が回復していることを改めて確認する。
「森井」
「兄貴」
 二人の呼びかけに、かすれた声で、ああ、と答える。
 目をこちらに向けるが、それ以外の体の動きはない。
 ひどくやられた体の痛みのせいか、それとも全身を固める包帯とギブスのせいか。
 いずれにしろ、ひどい状態であることには変わらなかった。
「しゃべれんのか」
 するとまた、ああ、とかすれた声で言う。
「無茶すんなよ」
「いや、しゃべるのは、本当に大丈夫だ」 
 と、ガラついた声を調えようと咳払いをする。体に響き、痛みに悶える。
「大丈夫じゃねえだろ」
 と指摘した俺に、いや大丈夫だ、と頑なに答える。そこまで言うならば、と遠慮して聞けなかったことを尋ねる。
「徳本さんは」
「さっき、帰った。用事が、あるって」
 きっと奥さんだろう。
 知り合いが面倒を見ているのだから、早めに帰ってあげたかったのかもしれない。
「そっか」
 と俺は答え、それ以上の会話を遠慮してしまう。山辺もやはり遠慮していると見え、病室に沈黙が訪れる。
 集中治療室の様で病室には窓がなく、意識を向けてごまかせるものも少ない。さて、どうしたものか、と考えていると、沈黙を気遣ってなのか、口を開いたのは森井の方だった。
(続く)

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