サムライ 第17話
【前回の話】
第16話https://note.com/teepei/n/na5b013e1d428
山辺が職場に復帰してからしばらく経ち、俺は山辺と飲みに行くようになっていた。
そこに上長が顔を出したり、谷口が加わったり、ごくまれに徳本さんが加われたり…と、職場の人間関係は、相変わらずいい方向に醸成されていく実感があった。
勿論仕事の上でもお互いへの気遣い、助け合いは行われ、むしろ意識もせずに行うほど浸透していた。
職場での行為にもポイントは発生する。
本当にどこで見てるんだ、と思いながら、無意識に行った気遣いに対して、ポイント稼いだな、とからかうネタにしたり、未だに気遣いが照れくさい人間にとっては、ポイントが欲しいだけ、と良い言い訳になっていたりした。
俺をとり囲むすべての世界が調和しているように思え、そこから外れていった人間のことなど忘れかけていた。それを叱責するかのように、唐突に森井と再会したのだった。
俺は街行く一人の人間として。
そして森井は、サムライ狩りとして。
日曜は定休日で、特に予定もない俺は街をぶらつくことにした。
すっきり晴れてはいないけど、雨が降ることもなさそうな曇り空は案外過ごしやすかった。
お陰で目的のない散歩も苦ではなく、本屋に行ったり、喫茶店に入って見たり、未だに残る小さなCDショップに入ったり、かなり散策を満喫していた。
そのCDショップは路地裏にあり、店を出たあたりから不穏な気配を感じた。
ちらっと後ろを見ると、男が二人付いてくるのが見える。
そして一人増え、二人増え…とその時に俺は決定的なものを感じて駆け出す。
振り返ると奴らも合わせて駆けてはいるものの、それほど必死さを見せていない。
前に視線を戻すと、さらに五人がその先の路地から現れていて、俺を待ち構えていたのだった。
舌打ちしながら手前の右に現れた曲がり角を折れ、そこで俺は自らの失策を知る。
行き止まりだったのだ。
この袋小路に気付き、戻ろうとするも既に奴らは曲がり角まで辿り着いている。
もう奴らは走っておらず、むしろゆっくりと獲物を仕留めるまでの時間を楽しんでいるようだった。
壁を背にし、俺は奴らの目的を考える。
サムライ狩り。
無論ポイントだけでなく、あらゆる金目のものを強奪するつもりだ。
特に治安の悪い地域ではなかったはずだが、サムライ狩りが横行したために徒党を組む輩が増え、本来いないはずだった場所にもこうして罠を張っているのだろう。
しかし一人を十人程度で追い込むとは、中々徹底した圧力だ。
あっさり屈するか、反抗してみるか。
この人数では、どちらにしろすべてを奪われて終わりだ。
それならやられっぱなしもつまんないか。
恐怖心を抑え込み、そんな強がりを考えていると、ゆっくり迫ってくる人の群れに、覚えのある顔を見た。
(続く)
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