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罪 第23話

【前回の話】
第22話 https://note.com/teepei/n/n21b5b33b24e2

物理的な接続ではなくても、こちらの接続を認識する。
そこにめがけて圧縮した記憶と意識を放出することで侵入をはじき、防御する。
乗り越えるには、一度に襲ってくる無数の記憶と意識を飛び回るようにして移動する。
それには軽やかさが必要だ。
意識の総体へ接続したときに似ている。
そう、経験したことのある現象だった。

「もう一度行く」
 そう告げ、再び没入する。

無数に襲ってくる記憶と意識。
同時の様で、僅かにズレが見える。
飲まれる前に離脱。
離脱。
離脱。
飛び回り続け、いずれ処理の感覚がつかめる。
いくつもの記憶と意識を垣間見ながら跳躍し続ける。
菊池の気配を探す。
無数の意識は菊池を隠すためでもあった。
本来なら対象者に意識を向けるだけで、相手の意識に介入できる。
介入にこれほどの手間がかかることはない。
それだけ、人工知能が仕掛けてくる防衛線が手厚いということでもある。
しかし。

「捕まえたぜ」
谷崎のつぶやきが無線を通して聞こえる。

「捕まえた?」
そう繰り返す本山だったが、谷崎からの返事はない。
谷崎には外部の声が聞こえない。

          ***

「谷崎」
「久しぶりだな」
黒いヘドロ状のものを突き破り、姿を現したのは谷崎だった。
「お前、どうして」
「詳しい説明は後だ」
そう言うと、ものすごい勢いで引きあげられる。
しぶきを上げ、プールからはじき出され、菊池はプールサイドに投げ出される。
「お前、どうして、ここに」
呼吸が整っていくのを感じながら、改めて質問を繰り返す。
「ここに、ってのは、お前の意識の中に、ってことか?」
「意識?」
寝転がりながら空を見つめ、しばらくして自分が『シャングリ・ラ』の被験者だったことを思い出す。
「何が起きたんだ」
「さあな。なにやら人工知能が暴走しやがったって言うんだが…どうも妙だな」
そう言いながら、谷崎はあたりを見回す。
「なあ、ここってもしかして」
「うん、小学校のプール。あの日の記憶に基づいてる」
「あの日、か」
谷崎はそれ以上語らない。
その単語だけで共有するには十分だった。
「何でお前はこの記憶の中にいるんだ」
疑問を発しながら、谷崎は目を洗う水道をいじっている。
「分からない。さっきまで、俺はあの日の追想にいた。でも途中で何かがおかしかった。急に黒いヘドロ状のものに襲われて…」
「そう、あなたを隠そうとした」
プールの端に、あのけがをした男が立っていた。
「彼はあなたを私の機構から外そうとしている。それでは何の解決にもならない」
(続く)
【次の話】
第24話 https://note.com/teepei/n/na869cbfdf94c

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