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罪 第22話

【前回の話】
第21話 https://note.com/teepei/n/ne7d9258e0ee2

「大西君の話では、目まぐるしい量の記憶映像と意思に圧迫されて、頭が割れそうになったと言っていた。おそらく意識への介入を察知して、向こうから接続してきたのだろう。
その後はあらゆる情報量で頭脳を圧迫した」
無線越しに本山が解説するが、谷崎はうるさそうにする。
「ところで、奴が言ってた『罪の解放』ってのは、なんなんだ?」
「さあ、私にもわからん。奴が独自に築き上げた論理に深く関係があるかもしれないが、人工知能が停止してしまえば何も意味はなさん」
「そうかい」
「気を付けてくれ。人工知能はおそらく私たちが技術的になし得なかった深層意識への接続を可能にしているはずだ。でなければ被験者の意識を超えて制御はできない。つまり、無防備な部分だからむやみなダメージは避けてほしい」
「了解。それじゃ行ってくる」
心細そうにプールを見守る石田が、眼鏡を押し上げて懸念を口にする。
「彼は大丈夫なんですか」
本山がうなずいて答える。
「今は彼が頼りだ」
「彼は囚人のようですが」
「そうだな」
「どんな罪を犯したのですか」
「殺人」
石田がぎょっとした表情を見せる。
「彼は、特殊能力による殺人を立証された最初の人間だ」
脇で会話を聞いていた森野が深くため息をつく。
本山が続ける。
「そして彼の殺人を立証したのが、この私だ」


 こいつは。

菊池の意識に介入するため、意識の世界への没入を試みた途端、すさまじい圧力が流れ込んでくる。
大西の言う通り、記憶や意識の奔流。
被験者十人分を圧縮してねじ込んでくるようだった。

「あぶねえ」
一度、意識を引き戻す。

「どうした」
「いや、なんでもない」
なるほどね、大西じゃまだ経験が浅いか。
大西は谷崎が推した、自分の後任だった。
同じ能力があることで他の事件に巻き込まれ、その時に知り合った。
しかしまだ制御が甘い。
没入と離脱に時間がかかり、ともすれば他の意識に飲み込まれやすい。
潜在的な力は大きいため、訓練を兼ねて本山の実験へ後任として薦めたのだった。
先ほどの奔流に飲まれ、離脱がうまくいかなかったのだろう。
もしかしたら飲み込まれたまま人格が崩壊していたかもしれない。
その可能性を考えると、後遺症もなく助かったのは良いことだった。
さて、と谷崎は胡坐を組み直す。
(続く)
【次の話】
第23話 https://note.com/teepei/n/n6ecc579e6be4

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