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罪 第24話

【前回の話】
第23話 https://note.com/teepei/n/n6ecc579e6be4

「おどろいたね。人工知能ってのは人格を備えるのかい」
谷崎の口元に不敵な笑みが現れる。
「人格はこの記憶からの借りものだ。私は自意識を備えている」
「自意識」
菊池がなぞるように呟く。
「解決ってのはなんだ」
「罪の解放」
ふん、と鼻で笑い、谷崎が答える。
「もったいつけんなよ。どういう意味だ」
「私は本来、被験者の安定を維持することが役割だった。そのために与えられた機能も知能も並のものでしかない。しかし被験者の女性で、耐えがたい悲しみの記憶を持つ者がいた。愛しい者を亡くす記憶。どうにもできない苦しみからか、彼女は過去に犯した自分の罪の代償で彼が死んだのではないか、自分の罪が彼を殺したのではないか、と考え始めた。孤独のまま苦しみ続け、参加した臨床試験でその記憶は暴走した」
「でも、記憶も意識も自分から積極的にイメージしたものしか写し取れないはず…」
問いかけた菊池の言葉をふさぎ、人工知能が続ける。
「そのはずだった。しかし彼女の記憶は強力過ぎた。常日頃から彼女は苦しみと共に記憶を拒絶していた。しかしこの装置に入ることで、返って記憶が露呈してしまった。
彼女の意志は拒み続けたが、もっと深い部分が記憶の流出を促していた」
「深層意識ってやつか」
谷崎が口を挟む。
「どう呼ぶのか私には分からない。しかしその記憶が彼女の意志に反して強制的に接続を求め、その分彼女が苦しむ。幾度か循環器系が不安定な数値を指し、私は対処しなければならなかった。装置を介して生理的に働きかけることで一時的に安定した。しかししばらくするとまた、記憶による苦しみで状態が不安定になる。やはり根本的に記憶が問題だった。私は記憶の内容を走査し、分析した。そして罪に行きついた」
菊池は追想していた記憶を思い出す。
それは初めて罪を意識した日でもあった。
「しかし私のデータベースや機能には、罪と苦しみの対処法は備わっていない。外部へのネットワークも遮断されているため検索もできない。最適値を求めるように指示されている私は、彼女の意志に反して接続を求めてくる深部に注目した。接続を求めてくるということは、他の被験者の頭脳よりも開け放たれた状態でもある。つまりこちらからの接続も可能ではないか、接続した先に新たな情報や論理があり、新たな対処法を構築できるのではないか、と」
(続く)
【次の話】
第25話 https://note.com/teepei/n/n08c1b5c6adfc

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