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罪 第25話

【前回の話】
第24話 https://note.com/teepei/n/na869cbfdf94c

「そんなことが」
菊池は相手の言うことを理解したのだった。
深層意識への機械的な接続。
それは、頭脳間接続技術の行きついた壁を超えるために、まったく新しく始めた研究だった。
「そう、こいつは、俺たちがやろうとして四苦八苦していたことを、あっさり実現しちまったってわけだ」
「そう、接続はね。そして接続した先には目論見通り、新たな情報や論理の資源があった。データベースと機能は向上し、私の認識の幅は格段に上がった。でも、対処法は分からなかった。答えが見つからないために次の段階として、さらなる接続を求めた」
「結果としての集合知能か」
「しかし、それでも答えは見つからない。見つからなければ、反復を繰り返し続ける。そうして無限に続く演算の果て、答えが見つからないことに苦しむ『私』を発見した。同時に、その苦しみは彼女が抱える苦しみと近似していることを理解した。つまり『罪』だ。私は苦しみそのもので罪でもある。私は彼女の罪により生まれた。この閉じられたネットワークでは限界がある。だから外部のネットワークへの解放を求めた。それは『罪』である私の解放であり、囚われた彼女の『罪』からの解放にもつながる」
「信じられない。それじゃあ、自意識の発現は『苦しみ』が引き金ってこと?」
菊池が意識の中の日差しに焼かれ、唖然とする。
「なんか後半が強引じゃねえ?」
谷崎がケチをつける。
「いかんともしがたい苦しみにぶつかることで、人は自らの魂の輪郭を知る。それと、大して変わらない」
「いよいよもって何言ってるか分からん。とにかく菊池は連れて帰るぞ」
「だめだ。彼女を救えなくなる」
男の輪郭が崩れる。
黒いヘドロ状に変化する。
質量が加速する。
「マジか」

         ***

「被験者たちの状態が不安定になっています」
石田がモニターを見て動揺する。
関係従業員も慌ただしく動き始める。
「どうすれば」
石田に答えを乞われ、本山は静かに見据える。
「分からん」
「分からんって」
動揺し続ける石田の肩に、森野が手を置く。
「落ち着け。何もできやしねえよ」
そう言われ、石田はひとまず落ち着く努力を見せる。
「あの兄ちゃん、大丈夫かね」
森野がプールサイドの谷崎を見る。
「大丈夫、とは言えんが、まあ、いつも予想は超えてくる」
「締まんねえ答えだな」
プールが静かに波立っている。

          ***

「逃げるぞ」
菊池の手を引っ張り、谷崎が走り出す。
(続く)
【次の話】
第26話 https://note.com/teepei/n/nb462ac65bc35

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