サムライ 第18話

【前回の話】
第17話https://note.com/teepei/n/n76719f02fc2f

森井。

 向こうもそれに気づき、中央を歩く男もその様子に気付き、問いかける。
「知り合いか」
 この男が群れの頭のようで、その隣を歩いていた森井は、この群れの中でもある程度の地位を獲得しているらしかった。
「ああ」
 そう答えるも、情けを掛ける余地を微塵も見せない。
 それから頭が煙草に火を点け、取り巻きの連中が率先して詰め寄り、俺の前に立ちはだかる。
「分かるだろ?持ってるもんは全部出せよ」
 取り巻きの一人が安い凄みを掛け、俺に言う。
「あとスマホな。ポイント渡せよ」
 凶悪そうな笑みを見せ、他の一人が手に持つ黒い機械を示す。
 ポイントの追跡履歴を無効化する機械があり、奴らはそれでポイントを吸い上げると言う。

 恐らくこれがそうなのだろう。

 ポイントの譲渡には必ず履歴が残り、それが不正防止の役割を担うはずだった。
 しかしこの機械はその履歴を無効にし、あたかも新規のポイントのように装って管理システムへ記録させる。
 本来時間が掛かるはずだったその工程を、読み取る瞬間で終わらせるという驚異的な発明なのだ。
もちろん出所は真っ当ではなく、その禍々しさが黒い機体から滲み出るようだった。

 取り巻き連中はまた一歩詰め寄り、さらに圧を掛けてくる。
「待て」
 頭が突然、取り巻き連中を制した。
「お前がやれ」
 と、森井に指示を出す。
 森井は表情一つ変えず、しかしためらいのような間を一拍置いた気もした。
 取り巻き連中は森井に場所を譲る。
 真っすぐ向き合い、俺は森井の顔を見る。
 影が濃くなった様にも見える。
 やつれたのは確かだった。
 返ってその分、外見は凶暴さが増していた。
 森井もまた俺をじっと見据える。
「どうした。やれよ」
 頭が促す。
「世の中糞ばかりだな」
 俺の口を突いて出たのは、以前に森井が吐き出した台詞だった。
 そう、糞ばかりだ。
 理不尽を振りまいていた上司と、お前に命令を下すあの頭に何の違いがある。
 結局お前は刃向かうはずだった糞に取り込まれて、俺とこうして対峙してるんだぜ。
 そこまで考えて、俺は少し悲しくなる。
 そして徳本さんに会いたい、と思った。
 
 森井はようやく動き出す。

 目には凶暴さが溢れていた。
 俺の襟首をつかみ上げ、壁に押し付ける。
 顔が間近に迫ったその時、小声で何かを口走る。

 暴れろ。

 確かにそんな風に聞こえた。
 お前の暴力でこっちは手一杯だよ、と思いながらも、そういうなら暴れてみようかとも思う。
 意図を汲む時間なんてない。
 でもほらなんだっけ、そう、やられっぱなしもつまんないだろ。
 先ほどの強がりを思い出したところで、まずは襟首を掴んでいる森井の
 手を掴み、身をよじり、無茶苦茶に膝を突き出す。その一つが森井の脇腹に入り、森井が悶える。
 しかし襟首は離さなかった。
(続く)

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