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【後編】イノベーティブな土壌にイノベーティブな花が咲く ANAのDX実現の極意は「土壌作り」にあり!

思い通りのキャリアじゃない。だからこそおもしろい!

国内最大規模の航空会社・全日本空輸株式会社(ANA)でいま、デジタルトランスフォーメーション(DX)の機運が高まっています。その旗振り役を担っているのが、Peach Aviation株式会社(ピーチ)の起ち上げに尽力し、現在はANAのイノベーション推進部の部長とデジタルデザインラボのエバンジェリストを兼任する野村泰一氏です。

インタビュー前編では、野村さんがANAでどのようなDXを実現し、ピーチ時代に学んだ「イノベーションの極意」についてお話しいただきました。​今回の後編では、野村さんがどのようなキャリアを積まれて今のような思考を身に付けたのか、そして、周囲を巻き込みながらDXを推進する技術についてお話しいただきます。​

――野村さんのご経歴について伺わせてください。もともとANAではどのようなお仕事を担っていたのでしょうか? 最初からいまのようなシステム関連の部署に所属していたんですか。

野村:ぜんぜんそんなことはなくて。はじめは営業として会社に入ったんですね。そのあとにIT部門に入って、システムに触れました。勉強しましたねえ……。

――そうだったんですね! てっきりシステム部門一筋なのかと。学生時代に情報系の学部に通われていたとか?

野村:いえいえ、文系出身です。私はどちらかというと、「価値を出すのは人間だ」と思っているんですよ。大学には情報系の講義もありましたし、担当の教授から「受けたほうがいいんじゃない?」と言われたりもしたんですけれど、「人間のほうが大事だと思ってますから」なんて言って逃げ回っていましたね(笑)

こんなこと言っていいのか分からないですけど、私、これまでのキャリアってまったく思い通りになってないんですよね。

――え、そうなんですか?

野村:だからこそ、おもしろい仕事を経験できているんじゃないかとも思うんですけどね。
まずですね、私はANAに新卒で入社しましたけど、当時飛行機に乗ったことがありませんでした。電車のほうが好きだったんです(笑)

――それなのになんでANAを受けたんですか?

野村:歳がバレちゃうんですけど、当時はちょうど国鉄からJRに変わるタイミングで、採用ゼロの年だったんですよ。入りたくても入れなかったんです。
たまたま大学のときに交通論の授業を受けていて、飛行機のことを勉強したんですよ。すると、飛行機に乗ったことないんですけど、「なるほど、航空もおもしろいもんだな」と思って。

――それでANAを受けることにしたんですね。

野村:ANAでもダイヤを扱う部署だと、ちょっと電車っぽい気分も味わえるじゃないですか。営業として入社したので、そんなことはまったくできませんでしたが(笑)
小さな営業の支店に配属になったんですが、そこにパソコンが入ってきたんですね。私はいちばん下っ端で周りはおじさんばかりでしたから、パソコンを使う業務をいろいろ任されるようになりまして。
大学時代はマーケティングをやっていたので、いろんなデータを入れてみてはマーケットの中で数字がどう変化していくか、みたいなことも試していたんですね。すると、先輩たちから聞いていたマーケットの傾向と、ちょくちょく違う結果が出ることがあったんです。
何が言いたいかというと、セールスってすごく経験値が求められるんですけれど、 データやシステムをうまく使えば、足りない経験を補えると入社1年目にして感じたんですね。

――そうすると次はマーケティング系の部署に異動なさったんですか?

野村:そう思うじゃないですか。もともと文系ですし、次はマーケティングでバリバリ分析かなとか考えているわけですよ。ところが何を間違ったのか、ITの部門に行くことになったんですね。パソコンばかり触っていたからでしょうか(笑)
ただ、思い通りにならないときって、自分の中に未経験の要素が入ってくるんで、それも悪くないなと思えました。それでシステムのことを勉強し始めて、5年くらい経つと、システムに関する知見もいっぱしに身に付きますよね。

――ですよね。でも5年もいらっしゃると、また異動の時期になるのでは……。

野村:上司からも「そろそろお前、異動だな。次どうしたいんだ?」と聞かれたんですね。このとき私は素直に、「今度もぜひ経験していないような新しいことをやってみたいですね。ただ、営業とシステムを経験したから、営業システム部――みたいな安易な異動はイヤです」と答えたんです。そしたら営業システム部に異動になりました。

――本当に思い通りになりませんね(笑)

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痛みや価値観を引き出して、自分の知見と組み合わせる

野村:営業システム部には9年半いました。自分にとって最長のキャリアです。そこで予約から発券に至るさまざまな新しいデザインを検討することになります。インターネット化するだとか、発券機の仕組みもデザインしましたし、コンビニでチケットを買えるような仕組みも作りました。

――「やだ」とは言いながらもご活躍されていますね。

野村:予約・発券の仕組みをいろいろ変えたところもあって、チェックインの部隊と会議をするときは散々文句を言ってたんですよね。「うちはこう変えたんだから、そっちも変えてくださいよ」って。別に空港でのキャリアがあるわけじゃないのにね(笑) そんな勝手なことを言っていたら、今度はチェックインの部署に異動に。それでSKiP(スキップ)を含めた搭乗周りのデザインをすることになりました。

――なるほど、しかし、本当にいろいろな部署で成果を出されてきたんですね。それぞれの部署で新しい仕組みをデザインできたのはなぜなんですか?

野村:チェックインの場合だと、空港で一日ずーっとチェックイン業務の様子を観察していました。気になることがあったら、勤務終わりの人を捕まえて「さっきはどうして〇〇していたんですか?」と聞いたりしていました。
そうすると、自分自身に業務の経験がなくても、仕事中に経験者が困っている・気にかけていることが分かる。経験がある人とコミュニケーションをする中で、その人が持っている痛みや価値観をうまく引き出して、自分の持っている知見と組み合わせ、なにか新しいモデルを作る。
こういう仕事のやり方が、この時期に確立されたように思います。

――なるほど。このあとはどのようなお仕事をされたんですか?​

野村:社内のLCCのプロジェクトができて、そこに呼ばれたんです。それがピーチでのキャリアの始まりなんですね。で、ピーチに出向するか転籍するかの選択を迫られて、転籍――つまりANAを辞める道を選びました。
私も勉強する前は誤解していたんですけれど、ANAのような大きな航空会社から機能を削るとLCCができると思っていました。メディアの方もそうなんですけど、すぐ「格安航空会社」って言うじゃないですか。だから「フルサービスのキャリアからなにかを引くと格安航空ができる」と思いますよね?

――今日までそう思っていましたが……違うんですね。

野村:でも実際に勉強してみると、「飛行機を飛ばす」ことは一緒なんですけれど、ビジネスをするモデルはまったく違うんですよ。お客さまの予約からチェックインまでの予約導線も、LCCという目線から見ると組み立て方がまたぜんぜん違います。
ピーチへの転籍でこうした新しい知見を得ることができました。これまで得た知見と新たに得た知見を総動員して、ピーチの予約から搭乗までのモデルを新しくすることになったんですね。そのときはANA時代に自分が作ったSKiPのモデルをどうやって超えようかと考えていました(笑)

――それも、ANAより少ない予算、少ない人員で。ずいぶん野心的なデザインですよね。

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「外から見たANA」が今の自分に生きている

野村:いまは縁があってANAに再入社することになったんですけど、ANAという会社を5年か6年、外から見られたのは貴重な経験でした。当たり前ですけど、普通にお金を払ってANAの飛行機に乗り、プレミアムメンバーになって、「野村様~」なんて呼ばれたりして(笑)
社員は普通、ラウンジにも入りませんから、そういったところに対する知識や心理状態にも意外と疎いんですよね。これはこれでまた、いい経験・財産になりました。

――お客さんからしたら普通のことかもしれませんが、何十年と逆側の立場でいらっしゃったわけですものね。

野村:LCCの目とお客さまの目、これがANAに戻ってきたときに、「いまANAの中で何が不足しているのか」を探る材料になっていて。これが先ほど話したベビーカーや車椅子、エンジン部材不調の調査といったデザインにもつながっていると考えています。

――これまで幅広くいろいろな部署を経験されてきて、ひととおりの仕組みを体験してきたことが、いまに生きているんですね。

野村:いやいや、まだまだ途中ですけどね。
良くも悪くも、「私がやりたいことは○○です」と言って、そのとおりの仕事をできている人はうらやましいと思います。その反面で、ひょっとするとその人が自分自身でも気付いていない自分の可能性ってあるかもしれないじゃないですか。
大学時代の私が、いまシステムを触っている姿なんて、絶対想像できない。「イヤです」って逃げ回っているんだから(笑)

――そうでしょうね(笑)

野村:いろんな人との出会いであったり、組織を通じて吸収していく考え方や知識が、自分の中でうまくかけ合わさっているような気がしますね。

システムのことをシステムらしく表現しない

――野村さんは「五輪の書」など、独特でわかりやすい表現を多用されますよね。それが、多くの人にメッセージをうまく浸透させていく秘訣なんだろうな……とも感じているんですけれども。こうした表現を生み出す秘訣をおしえていただけませんか。​

野村:そうなんですかね? ひねり出しているつもりはないんですけれど。

――そうなんですか?

野村:高校時代は生物部で生き物が好きだったり、歴史好きだったりするので、そういう表現が出てくるというのはあると思います。
なので、別に背伸びをして考えているわけではないんです。自分として分かりやすい表現で話してみて、それを相手がスムーズに理解してくれたら、「これは使えるな」と思って心にメモすることはありますけどね。
あとは、システムのことをシステムらしく表現しないことによって、自分の部下だけではなくて、最終的にシステムを使う人たちともコミュニケーションしやすくなるんですね。

――なるほど。同じ部署の方以外にも情報を発信しておられるんですね。

野村:社内にイノベーションに関心のある人が集まるSNSがあって、そこで定期的にコラムを書いています。先週は松尾芭蕉の俳句「古池や蛙飛びこむ水の音」がテーマ。古い池――これを旧態依然の環境に例えて、ここに蛙をポチャンと飛びこませることによって、古い環境を打ち壊すイノベーションを歌っているとも読めるんじゃないか……なんて話を書きました。

――それは大胆な解釈ですね(笑)

野村:そこから発展させながら、本当に言いたいことにつなげていくわけですね(笑)
笑い話みたいなことを書いているんですけれど、実際には中身はシステム論です。システムのことを話しているんだけど、極力システムの言葉を使わないように心がけています。

――そういった取り組みは実際に効果ありますか?

野村:ありますあります。SNSにはそんなにたくさん「いいね!」は付かないんですけれど、社内を歩いていると、「見たよ」という声もけっこうかけてもらえるんですよね。「なんでお前いいね!付けてないの」なんて言ったりするんですけど(笑)

――誰がいいね!付けてくれたか見ているんですね。

野村:見てますよ、小心者なんでね(笑) でもいいんですよ。ちゃんと見てくれている人がいて、いいね!を押しているのは氷山の一角だとこれで分かるんで。
そういうのも含めて、システムの話をストレートにするよりも、違う形で置き換えて自分たちの課題や目指すべき姿、大事にしていることを語るのって大事だと思ってます。

――外部の方とのコミュニケーションがしやすくなりますよね。

野村:そうそう。システム部門てどうしても、決まった人、同じ部署の人としか話さないことが多いんですよ。でも、実際にシステムを使っているのは、会社にいるもっと多くの人なんです。その人たちに向かって、「私たちは今こういうことを気にしていて、こんなことに取り組んでいるんだ」ということを直接話すことで、システム部門とそうでない人たちのギャップを埋められるんじゃないかと考えています。
それができていないから、システム部門の顔が見えていないから、システムがこけたらボロクソ言にわれるんですよね。

――たしかに、顔が見えていたら、ちょっとは気を遣ってくれますよね。

野村:整備の不具合があったときって、「整備士さんがんばってください」とみんな声をかけます。一方、システムに不具合があると「何やってんだお前ら!」って怒声が聞こえてくる(笑)
この違いはなんなんだろうなと。同じ機械を扱っているはずなのに。

――なんなんでしょうね……。

野村:そのときの私の結論は、「顔が見えないから」だったんですね。整備士さんは空港で整備している姿が誰の目からも見えているから、頑張っている姿もわかります。でも、システムって誰が作っているのか見えない。
だから、SNSの発信がとても大切です。それを見た外部の人たちが「困ってるんです」と声をかけてくれたら、今度はデザインのチャンスになりますから。

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ダンゴムシも石も味方にできるデザインを目指そう

――これからDXを推進していく担当者の方に向けてアドバイスやメッセージをお願いします。

野村:DXは既存のなにかしらの役割・組織・企業を変えていく仕組みなので、DXが必ずしもすべての人に歓迎されるわけではないと思うんです。でもそれを単純に「悪」と突き放しちゃいけないし、DXを推進する人はそういうメッセージを出していくべきです。
私の場合は、ANAで定期的に催している「ダンゴムシのワークショップ」というものがありまして……。

――ふだん石の下に隠れていて目に見えないダンゴムシのことを、「隠れた業務課題」に例えているワークショップですよね。石をどけてダンゴムシを救い出すには、どうしたらいいかを業務部門とシステム部門で協力して考えているとか。

野村:そうですそうです。このワークショップをするときに、大事なのは石に対する見方だという話をするんです。ダンゴムシを見えなくしているのは石です。逆に言うと、ダンゴムシは石があるからそこにいる。
ダンゴムシにはダンゴムシの、石には石の理屈があり、石にはダンゴムシを隠している理屈がある。

――単純に「石が悪」と見てはいけないと。

野村:うん。さまざまなステークホルダーがいて、ステークホルダーサイドにはそう主張する理屈がある、大事にしている何かがあるはずなんです。自分の狭い視野では、ステークホルダーを十分に評価できないと考えるべきです。
なので、ダンゴムシだけを救うことを考えず、石も味方にできるデザインができるといいんじゃないかと思うんですよ。

――たしかにそうできるのがいちばんいいですよね。

野村:ただ、これは理想なのでうまくいかないこともある。自分たちが作ったデザインやシステムを目の前にいる人たちとだけ共有しても、その価値はうまく伝わらない可能性がある。大きな拍手は私のところまでは届かないこともけっこうあるんですよ。

――それってなかなかつらいですよね。せっかく作ったシステムやデザインが評価されないのは。

野村:でもね、社外の方とこうやって実現した仕組みやデザインについて話すと「それすごいんじゃない!?」と言ってもらえることって、けっこうあるんですね。デザインの価値ってプリズムのようなもので、見る角度によって色が変わるんですよね。だから、目の前の人たちに評価されなかったからと言ってめげる必要はない。
私も含めて、人間そんなに強いものじゃありませんから、評価される場所を見つけて情報を発信することも大事です。そうした繰り返しで少しずついろんなステークホルダーを巻き込んで、応援してくれる人たちを増やしていき、自分のデザインを広げていけば、DXってうまくいくんじゃないかと思います。​

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「イノベーティブな土壌にイノベーティブな花が咲く」、「痛みや価値観をうまく引き出して、自分の持っている知見と組み合わせ、なにか新しいモデルを作る」、「システムのことをシステムらしく表現しない」など、“大企業のDX”に示唆を与える多くの言葉をくれた野村さん。
多くの人を巻き込まざるを得ない大企業のDXだからこそ、システム部門の外側にいる人にも分かりやすい表現を心がける――。多くの人にとって変化は苦しいもの。だからこそコミュニケーションを絶やさず少しずつ仲間を増やしていく。こうした手法は航空業界にとどまらず、DXに取り組むすべての人に共通するヒントとなるのではないでしょうか。
野村さん、ありがとうございました!

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野村 泰一 氏
全日本空輸(ANA) イノベーション推進部長 兼 ANAデジタルデザインラボ エバンジェリスト
インターネット予約やスキップサービスなどANAの予約搭乗モデルをデザイン。日本初のLCCであるPeachの創設に携わったあと、2017年4月より現職。ロボット、IoTなどのデジタルテクノロジーを活用しながらDXを推進する一方で、働き方改革などのテーマにも取り組んでいる。

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