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もう20年近く前の話になるが、Flashアニメを作り公開するのが流行っていた時期がある。ワタクシと同世代か少し近い方なら「懐かしいなぁ」とお感じになられるのでは無かろうか。

そのFlashアニメ全盛期の傑作のひとつに【ゴノレゴ】と言うシリーズがあった。
某アサシンのそっくりさん・ゴノレゴが巻き起こすおかしな日常(?)を綴った作品で、どちらかと言えばギャグに当たる。その第一作目で、ゴノレゴが牛丼チェーン店の吉野家について淡々と語ると言う内容のものがある。この作品の台詞は通称【吉野家コピペ】と呼ばれており、当時はパロディ作品が出たりオフ会の物真似の定番ネタだったりした。

その【吉野家コピペ】で、ゴノレゴはこう語る。

やっと座れたな、と思ったら
隣の奴が
「大盛り、つゆだくで」とか言ってるんです
そこでまたブチギレですよ
あのな、今日びつゆだくなんて
流行んねぇんだよ、ボケが
得意気な顔をして
何が「つゆだくで」だ
お前は本当につゆだくを喰いたいのかと
問いたい、問い詰めたい
小一時間問い詰めたい
お前、単に「つゆだく」言いたいだけ違うか、と

細部は違うかも知れないが概ねこんな内容だったかと思う。

過日、久々にYouTubeでこの【吉野家コピペ】をテーマに扱った動画を見かけた。最も20年の歳月は合成音声の界隈を大きく変え、ゴノレゴのガサガサボイスはずんだもんのかわいらしい声に変わっていたが。

その、ずんだもんが喋る吉野家コピペを聞いている内に、幼少の頃の記憶が鮮烈に蘇った。

現在、料理研究家としてあちこちのメディアで高い人気を誇る土井善晴さんのお父君で、同じく料理研究家だった土井勝さんと言う方がいらっしゃる(最も既に鬼籍に入られて久しいが)。その土井勝さんの看板番組のひとつに「おかずのクッキング」と言う番組があった(土井勝さん勇退後、土井善晴さんがその衣鉢を次いで最終的に番組は48年間続き、先年その長い歴史に幕を閉じたそうである。親子二代での長寿番組。人気の高さが伺える)。

この「おかずのクッキング」は、例えばワタクシが風邪をひいて学校を休んだような日など、良い暇潰しになった。自分がその料理を作る訳でも無いのに、土井勝さんの料理を作る手つきは何とも楽しそうと言うか、肩に過度に力が入っておらず自然体だったのが、今思えば番組に惹かれた理由なのかなと思う。

その「おかずのクッキング」の中で、親子丼かカツ丼か失念したが、丼ものを作る回があった。その時、土井勝さんはいつもの穏やかな調子でたったひと言こう仰った。

「丼ものはね、"汁かけ飯"になってはいけないんです」


理由は良く判らないのだが、この時の土井勝さんのお言葉は幼いワタクシの心にしっかりと刻み込まれたのだった。以来、自炊で丼ものを作る時は、汁だくにならないよう水分量には気を使っている。

個人的には、丼ものは飽くまで【具材とご飯の一体感】を楽しむ料理で、"汁"は飽くまで具の一部…もっと言えば具の味つけに過ぎないものである故に量が多くては本末転倒である。
対して、汁かけ飯は具とスープが一体化した"汁"とご飯とのハーモニーを楽しむ料理なのだ…とワタクシは勝手に解釈している。

そう言えば、汁かけ飯でひとつ思い出した。脱線が過ぎるが、併せて記す事にする。
歴史学者・文筆家の上橋菜穂子先生による人気小説【守り人】シリーズには、数々の美味しそうな料理が登場する。その料理のひとつに【スチャル】と言う名の汁物がある。鶏肉を使った塩味の汁物らしい。
そして作中、このスチャルの鶏肉を取り分けて裂いてご飯に乗せ、鶏の旨味が利いたスープをたっぷりかけて、更に卵を割り落とした汁かけ飯が登場する。
これは正しく"汁かけ飯"であり、スープと具が一体化した汁とご飯とのハーモニーを楽しむ逸品だろう。
スチャルと汁かけ飯の作り方は、上橋先生の作品群に登場する料理の再現レシピ集【バルサの食卓】に詳しい。興味が湧いた方は作ってみては如何だろうか。

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